温泉発電に宇宙技術を生かす、未利用の蒸気で1000世帯分の電力:自然エネルギー
宇宙開発施設のインフラ設備などを手がける民間企業が大分県の別府市で温泉発電プラントを運転開始した。これまで温泉で使っていなかった蒸気を活用して、一般家庭で1000世帯分の電力を供給する。発電設備の初期投資額は約6億円で、売電収入によって8年程度で回収できる見込みだ。
日本有数の温泉地帯である大分県の別府市内で11月30日に「コスモテック別府バイナリー発電所」が運転を開始した(図1)。低温の熱でも発電できるバイナリー方式を採用して、4台の発電機で合計500kWの電力を供給することができる。年間の発電量は372万kWhを見込んでいて、一般家庭で約1000世帯分の使用量に相当する。
この発電所を建設・運営するのは、宇宙開発施設のインフラ設備事業を手がけるコスモテックである。鹿児島県にある種子島宇宙センターのロケット燃料を供給する配管設備の設計・施工なども担当していて、安全で効率的なガス配管設備の技術を温泉発電に応用した。
コスモテック別府バイナリー発電所の設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は84.5%に達する想定で、年間を通じて安定した電力を供給することが可能だ。発電した電力のうち所内で消費する分を除いて九州電力に売電するほか、2015年からは新電力にも供給する。1kWhあたり40円(税抜き)の買取価格で年間の収入は約1億円を見込んでいる。
発電設備には米国Access Energy社が開発したバイナリー発電機(1基あたりの発電能力125kW)を採用した。4基の発電機を含めて初期投資額は約6億円である。固定価格買取制度では地熱発電による電力は15年間の買い取りが保証されている。運転維持費を加えても、初期投資の6億円を8年程度で回収できる計画だ。
バイナリー発電は温泉水を利用する場合に一般的な方法である。100度前後の熱を使って沸点の低い媒体を蒸発させて、その蒸気でタービンを回して発電する(図2)。Access Energy社のバイナリー発電機ではエアコンなどにも使われているR245faと呼ぶ媒体を使っている。
発電に利用する温泉の蒸気は源泉事業者の別府スパサービスが供給する(図3)。従来は別府市内の源泉から湧き出る温泉水を地域の温泉施設に配湯してきたが、同時に発生する蒸気は使われないまま廃棄していた。蒸気を発電用に供給しても温泉には影響を及ぼさない。
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