2030年の発電コストが決まる、原子力は10.1円、太陽光は12.7円:法制度・規制(2/2 ページ)
日本のエネルギー政策の方向性を左右する重要な指標の1つが電源別の発電コストだ。政府の委員会が2014年と2030年の発電コストを試算した。予想通り最も安く見積もった電源は原子力で、電力1kWhあたり10.1円である。安全対策費や核燃料サイクル費用を過小に評価している。
放射性廃棄物の処理費は0.04円!?
火力発電のコストは2030年になると、石炭火力が高くなってLNG火力が安くなる。いずれも発電効率が改善して燃料費は下がる見込みながら、石炭火力だけはCO2対策費用が増える。
2014年の時点でも石炭火力には電力1kWhあたり3.0円のCO2対策費用を織り込んでいる(図4)。これが2030年には4.0円に拡大する想定だ。CO2排出量の取引価格が世界的に上昇することを前提にしている。ただしCO2を回収・貯留するコストは現時点で算定が難しいために含めていない。
コストの算定が難しい点では、原子力が最たるものと言える。いまだ再稼働のめどが立っていない発電設備が大半を占めているにもかかわらず、43基が運転することを前提にして2030年の発電コストを算定した。稼働する発電設備が少なくなれば、当然ながら1kWhあたりの発電コストは上昇する。
原子力の発電コストの内訳をみると、6種類の費用が入っている(図5)。このうち建設費を中心とする資本費と運転維持費は算定しやすいが、残る4つの費用は不確定な要素を含んでいる。特に「追加的安全対策費」と「核燃料サイクル費用」は格段に増える可能性が大きい。
例えば追加的安全対策費は電力会社が1基あたり約1000億円と見込んでいるのに対して601億円しか見込んでいない。43基の中には老朽化した発電設備も多く、実際には1000億円を大きく上回る安全対策費が追加で必要になることは確実である。
核燃料サイクル費用に関しても非現実的な前提をもとに過小に見積もっている。いまだに核燃料のサイクル設備が稼働していないにもかかわらず、使用済みの燃料を20年から45年かけて100%再処理できることを想定して費用を試算した。
さらに高レベルの放射性廃棄物の処理費に至っては、電力1kWhあたりわずか0.04円しか計上していない。最終処分場のめども立っていない状況では、そもそも費用を試算すること自体が不可能である。
もはや原子力発電のコストが安くないことは広く知られている。今回の試算をうのみにする国民が決して多くないことを政府は早く認識すべきである。このままではエネルギー政策が国民の意向からますますかけ離れていくばかりだ。
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