日本の温室効果ガスの4割を生む電気事業者が排出を抑えるには:法制度・規制(2/2 ページ)
環境省は、日本において二酸化炭素の最大排出事業者である、電気事業における地球温暖化対策の枠組みについて、有識者に公開ヒアリングを行った。
世界の流れにとり残される日本
橘川氏は、エネルギー政策と国際的な観点から提案を行った。日本では東日本大震災以降、原子力発電の停止および石炭火力発電による発電比率向上により、温室効果ガスの排出は増えているのが実情だ。
橘川氏は「以前の状況とは全く異なり、日本は地球温暖化対策という面では後退したといえる。一方で、京都議定書に参加していなかった中国はPM2.5などの公害問題で苦しむ中で、結果として温室効果ガス削減が進んでいる。同じく米国もシェールガス革命で天然ガス火力発電へのシフトが進み、大きく温室効果ガスの排出を抑える結果となっている。このままでは国際的な地球温暖化対策の流れに日本はとり残される恐れがある」と警鐘を鳴らす。
エネルギーミックス(電源構成)の視点から、温室効果ガスの排出量を減らすということを考えた場合、重要になるのは「石炭火力をどれだけ減らすことができるか」という点だ。政府による2030年までの電源構成の暫定目標では、原子力が20〜22%、再生可能エネルギーが22〜24%、LNGが27%、石炭が26%、石油が3%という比率が示されている(関連記事)が「エネルギー政策としても、地球温暖化対策に関する政策としてもおかしな点が多い」と橘川氏は指摘する(図2)。
「原子力についても40年廃炉の原則に従えば電源構成比率は15%程度となる見込みなのに20〜22%としたのは、60年廃炉への延長を計画しているからだ。ただ地球温暖化という観点で見た場合、重要なのは石炭火力である。将来的な電源構成と現在の発電能力などを見ると、石炭火力発電所の建設数が多すぎる。新たな建設には地域振興などの動きと組み合わせたものなどもあるが、石炭火力の建設数の抑制と技術革新による温室効果ガス排出量の抑制が重要だ」と橘川氏は述べる。
国境の枠内で考えない
現実的に石炭火力発電に頼らざるを得ないという現状の中で「国境の枠内で考えるのではなく、地球環境全体でCO2を減らすという考え方も必要となる」と橘川氏は主張する。
「例えば『国内で石炭火力発電を利用したいのであれば海外へ技術移転を行って地球温暖化対策に貢献しなければならない』という施策などはどうか。こう言う取り組みを行うには、中国との国際競争に勝つために政策投資銀行などを活用した金融支援なども必要となる。こういう活動を政治で行うべきだろう」と橘川氏は述べている。
環境省では今後、これらの意見を参考に、電力事業分野における地球温暖化対策の枠組みを早期に策定すべく取り組みを進めていくとしている。
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