2030年のエネルギーミックス、火力発電を5割まで低減:法制度・規制
将来の電源構成を決める「エネルギーミックス」の議論が政府の委員会で始まった。最大の目的は2030年の発電量の構成比率を決めることで、火力と原子力の廃炉を進めながら、再生可能エネルギーの導入量を30%程度まで増やせるか。CO2排出量の削減に向けて石油火力はほぼゼロになる。
今後20年間のエネルギー需給構造を検討する「長期エネルギー需給見通し小委員会」の第1回会合が1月30日に開かれた。事務局を務める資源エネルギー庁は現状分析の資料を委員会に提出する一方、「エネルギーミックス意見箱」を設けて国民からの意見を募集し始めた。
焦点になるのは、2030年における国全体のエネルギーミックス(電源構成)である。資源エネルギー庁による現状分析の資料を見ると、何としても原子力発電の比率を高めようという意図がうかがえる。火力発電や再生可能エネルギーの問題点を指摘しながら、原子力の必要性を訴える内容になっている。
日本のエネルギー事情が抱える問題点の1つは、震災後に化石燃料の依存度が高まってCO2排出量が増加したことである。電力会社10社の2013年度の発電電力量のうち、実に88%を石油・石炭・天然ガスによる火力発電が占めている(図1)。
政府が意欲的な地球温暖化対策を世界各国に示すためには、化石燃料の依存度を震災前の6割程度に引き下げることが当面の課題だ。2010年度の水準に戻すことができれば、国全体のCO2排出量は基準年の2005年度比で6%以上の削減率になる(図2)。さらに2030年の時点では、化石燃料の依存度を5割まで低下させることが望ましい。
化石燃料の中でもCO2排出率が最も大きいのは石油火力で、発電コストも高いことから2030年にはほぼゼロにする必要がある。先進国と比較すると、日本の石油火力の比率は飛び抜けて高く、CO2排出量を増やす大きな要因になっている(図3)。老朽化した発電設備から早めに廃炉にすることが妥当だ。
将来の火力発電は天然ガスと石炭による高効率のコンバインドサイクル方式が中心になる。従来の発電設備と比べて効率が20〜30%程度も高くなって、それだけ燃料費とCO2排出量を削減できる。この2つの発電方式で全体の5割の電力量をカバーできると、CO2排出量は現在と比べて半分程度まで減らすことが可能になる。
2030年に火力発電の比率を5割に抑えたうえで、残りの5割をCO2を排出しない再生可能エネルギーと原子力で供給する。原子力の比率が再生可能エネルギーを上回ることは国民の納得を得られないため、原子力は25%以下に、再生可能エネルギーは25%以上に設定する可能性が大きい。現実的な比率は原子力が20%、再生可能エネルギーが30%だろう。
原子力は2030年までに全体の約3分の2が運転開始から40年を経過する(図4)。発電所の新設や運転期間の延長がなければ、残る3分の1で発電できる量は15%程度を占めるにすぎない。もし20%以上の水準に増やすのであれば新設か期間延長が必要で、安全基準のハードルは高い。
2030年になれば水素を燃料にした発電設備も実用化されている見通しだ。再生可能エネルギーの余剰電力を水素に転換して、発電用の燃料にも利用できるようになる。この方法を使えば、再生可能エネルギーの比率を30%まで増やすことは十分に可能である。
原子力の比率を高めたい資源エネルギー庁と電力会社の思惑を、国民の意見でどこまで抑えることができるか。2014年4月にエネルギー基本計画を策定した時には、国民の意見はほとんど反映されなかった。第2回の委員会では、国民からの意見も含めてエネルギーミックスの具体的な目標値を議論することになる。
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