再生可能エネルギーの買取義務を変更、小売電気事業者に上限を設定:動き出す電力システム改革(38)
小売全面自由化に合わせて、固定価格買取制度の認定を受けた電力を買い取る義務が小売電気事業者に発生する。ただし販売量の少ない事業者にとっては、過剰な電力を買い取ることは難しい。政府は買取義務の上限を設ける考えで、事業者ごとに需要の大きさをもとに設定する方法を検討中だ。
第37回:「電力も価格が変動する商品に、先物取引で15カ月先までリスクヘッジ」
固定価格買取制度を利用して再生可能エネルギーの電力を供給するためには、事業者間で2種類の契約が必要になる。1つは発電事業者から小売電気事業者に供給する電力の量や価格を定めた「特定契約」、もう1つは発電設備を送配電ネットワークに接続する条件を取り交わす「接続契約」である(図1)。
このうち特定契約は発電事業者が小売電気事業者に締結を申し込むと、例外の条件に当てはまらない限り、小売電気事業者は拒否することができない。例外の条件は法律で決められていて、代金の支払方法に同意できない場合や、離島などで電力の供給を受けられない地域に該当するケースが含まれる。
さらに新電力であれば、顧客からの電力需要を上回ってしまう状況が想定される場合にも契約を拒否することができる。この例外条件は電力会社には適用されない。ところが2016年4月の小売全面自由化に伴って事業者の区分が変更になり、現在の電力会社と新電力は同じ小売電気事業者に位置づけられる(図2)。固定価格買取制度の電力を買い取る義務は同様に発生して、従来の例外条件の違いを設けることはできなくなる。
そこで政府は小売電気事業者の買取義務に上限を設ける検討に入った。事業者ごとに顧客からの電力需要を想定したうえで上限を決める案が有力だ。現在でも電力会社は地域ごとの需要をもとに太陽光発電や風力発電の接続可能量を設定している。それと同様の考え方である。
ただし小売電気事業者が買い取る電力の上限を低めに設定してしまうと、新たに固定価格買取制度の認定を受けた発電設備が特定契約を締結できない状況も考えられる(図3)。従来は電力会社が買い取るケースでも、小売全面自由化後には電力の供給先を確保できない可能性が出てくるわけだ。
事業者ごとの上限をどのような方法で決めるのか。電力需要は季節や時間帯によって変動するため、最大値・平均値・最小値など指標もいくつかある(図4)。さらに新規参入の小売電気事業者は当面の需要を見極めにくく、上限を設定することが難しい。こうした点を考慮して、販売量の少ない事業者や参入直後の事業者に対しては、買取義務を課さない措置や上限を低めに設定する方法も検討していく。
小売全面自由化後は「計画値同時同量」と呼ぶ新しい制度へ移行する。発電事業者と小売電気事業者は1時間前の時点で計画した発電量と需要をもとに、送配電事業者に電力の需給調整を任せることができる。小売電気事業者には需要の予測と計画を的確に立てる能力が求められる。それを前提に買取義務の上限を設定することになる。
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