再生可能エネルギーの電力でも、「CO2フリーではない」と説明?:動き出す電力システム改革(35)
小売全面自由化で利用者の選択肢は大幅に増える。再生可能エネルギーで作った電力を販売する事業者の増加が予想されるため、政府は電源構成の表示方法に規制を設ける。固定価格買取制度を適用した電力を販売する場合には「CO2フリーではない」といった説明を義務づけることも検討中だ。
第34回:「節電した電力を売れる、ネガワット取引が小売自由化で活発に」
原子力で発電した電力を嫌う傾向が家庭を中心に根強くある。2016年4月に小売全面自由化が始まれば、電源の種類によって購入先を決める利用者が数多く出てくる。そうしたニーズを見込んで、「環境にやさしいクリーンな電力」を売り物にする小売事業者が増えることは確実である(図1)。
ただし小売事業者が再生可能エネルギーで作った電力を販売する場合には厳しい規制を受けることになる。固定価格買取制度の適用を受けた電力に対しては具体的な説明を義務づける方針だ。政府が検討中の説明文は極めて回りくどい表現を使っていて、消費者の購買を手助けするものとは言いがたい(図2)。とりわけ「CO2フリーの電気とは異なる」という説明は誤解を招く恐れがある。
再生可能エネルギーのほかに火力や原子力を含めた電源構成を示すことが多くの消費者から求められている。小売事業者に電源構成の開示を義務づけることは消費者保護の面でも重要だ。自由化が進んでいる欧米の先進国の多くは電源構成の開示を法律で義務づけている(図3)。米国の一部の州では商品メニューごとに電源構成を開示する必要がある。
日本では電源構成の開示を求める消費者の声が強まる一方で、電力会社を中心に否定的な意見が事業者側から出ている。「すべての小売事業者に開示を義務化する必要はない。自主的に開示する事業者に向けたガイドラインを整備し、開示するか否かは事業者にゆだねるので良いのではないか」というのが代表的な意見だ。
全面自由化に向けて2015年8月には小売事業者の事前登録が始まることから、政府は遅くとも7月末までに電源構成の開示に関する方針を明確にする必要がある。現在のところ、原子力・火力・水力・再生可能エネルギーの4種類で電源構成の比率を表示する案が有力だ(図4)。再生可能エネルギーについては固定価格買取制度の適用を受けたものと受けないものに分けることも義務づける。
さらに詳細な電源構成を開示するかどうかは事業者の判断に任せる。電源の種類を重視して電力を選びたい利用者にとっては、火力をLNG(液化天然ガス)・石炭・石油の3種類に、再生可能エネルギーは太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスの5種類に分けて表示することが望ましい(図5)。
国の政策として2030年のエネルギーミックス(電源構成)の目標値を決めたからには、発電事業者と小売事業者に対して電源構成の開示を義務づけることは必然と言える。自由化した市場では、消費者のニーズをもとに商品を作ることが事業者の基本だ。ニーズに合わない商品を大量に作るような事業者は生き残れない。
関連記事
- 固定価格買取制度による電力は宣伝できない、政府がガイドラインで規制へ
小売の全面自由化によって事業者間の販売競争は激しくなる。再生可能エネルギーによる電力で顧客を獲得する事業者の増加も予想されるが、その際の宣伝方法に関して政府はガイドラインを設けて規制する方針だ。固定価格買取制度の交付金を受けた電力は制約を受ける可能性が大きい。 - 電力小売自由化で利用者の意識、「原子力を保有する電力会社は選ばない」が3割に
電力小売の全面自由化で利用者の選択条件はどう変わるのか。楽天リサーチが全国1000人を対象に調査したところ、自由化によって電力会社以外から電力を購入できるようになることを回答者の6割が認識していた。特に原子力発電を理由に電力会社を敬遠する意向が明確に表れている。 - 原子力には厳しい目線、電力会社選択で8割以上が「何で発電しているか」を重視
日本生活協同組合連合会は全国約1000人を対象に行った「これからの電力のあり方についての消費者意識調査」の結果を公開した。一般消費者は電力会社を選択する際に電源構成をに関する情報を重視しており、原子力発電に対しては依然として厳しい目を向けていることが分かった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.