地域を守る砂防ダムに小水力発電を、木材と下水はバイオマス発電に:エネルギー列島2015年版(19)石川(2/2 ページ)
全国で降水量が最も多い石川県の山間部には砂防ダムが設けられている。土砂災害を防ぐ役割に加えて、未利用の水流を生かした小水力発電の導入が始まった。森林に放置された用途のない木材はバイオマス発電で地産地消を進めながら、都市部では下水の汚泥によるバイオガス発電が広がっていく。
ブルドーザーの工場にバイオマス発電
最近は水力と並ぶ地域の資源であるバイオマスを活用するプロジェクトが広がってきた。特に注目を集めるのが、石川県を代表するメーカーのコマツが新工場に導入した木質バイオマス発電である。ブルドーザーなどを生産する「粟津(あわづ)工場」に新設した組立工場では、バイオマス発電を活用しながら徹底した省エネを実施して、年間に購入する電力量を90%以上も削減する計画だ(図4)。
バイオマス発電設備は1基あたり105kWの発電機2基を導入した。2015年4月に運転を開始して、年間に140万kWhの電力を供給することができる(図5)。さらに発電用のボイラーや発電機から生じる排熱を利用して、工場内の冷暖房や機械設備の動力に再利用する。発電と排熱の利用量を合わせると合計で3200kW分の電力に相当する。
燃料に利用する木質バイオマスは近隣の山林に放置されている間伐材など未利用の木材である。地元の「かが森林組合」から年間に7000トンの木質チップの供給を受ける。森林の木材を伐採・運搬する作業にコマツの機械を使いながら、間伐材や端材など用途のない木材をチップにして工場のエネルギー源に活用する。林業と製造業が連携して木質バイオマスを地産地消する新しい取り組みだ(図6)。
バイオマスの有効な活用法として、もう1つの代表例が下水の汚泥を利用したバイオガス発電である。金沢市にある「犀川(さいがわ)左岸浄化センター」では、合計12基のガスコージェネレーションシステムを使って電力と温水を供給している(図7)。
1日あたり7万立方メートルにのぼる下水を処理する過程で大量の消化ガスが発生する(図8)。この消化ガスを利用して合計300kWの電力を作り出すのと同時に、汚泥の処理に必要な85度の温水を供給する仕組みだ。従来は温水ボイラーの燃料に消化ガスを利用してきたが、コージェネレーションの導入によって消化ガスの全量を発電に利用しながら温水の供給も可能になった。
年間の発電量は230万kWhになり、一般家庭の使用量で700世帯分に相当する。発電した電力は2013年度から固定価格買取制度で北陸電力に売電している。バイオガスによる電力の買取価格は1kWhあたり39円(税抜き)を適用できるため、浄化センターが得られる年間の売電収入は9000万円になる。
これまで石川県の再生可能エネルギーは大規模な水力発電を除くと、風況に恵まれた能登半島の沿岸部を中心に風力発電が先行して進んできた(図9)。ようやく太陽光や小水力、バイオマスの導入量が増え始めて、地域の資源をバランスよく活用できる体制が整う。
*電子ブックレット「エネルギー列島2015年版 −北陸・中部編 Part1−」をダウンロード
2016年版(19)石川:「農地を太陽光発電で再生、能登半島に新たなエネルギーの風が吹く」
2014年版(19)石川:「農村の再生は太陽光でスマートアグリ、砂防ダムに小水力発電を」
2013年版(19)石川:「日本海へ延びる長い半島に、風と水と森から電力を」
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