「次世代太陽電池はなぜ劣化が早いのか」原子レベルの理論計算で解明:太陽光(2/2 ページ)
物質・材料研究機構は、次世代太陽電池として注目されている「ペロブスカイト太陽電池」の実用化に対し課題とされていた「劣化問題」と「変換効率の再現性」の問題が、陽イオン分子の拡散の影響を受けていることを理論計算で証明した。
陽イオン分子の拡散が大きな問題に
今回の研究は、ペロブスカイト太陽電池の「原子レベル機構の解明」を行うもので、物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点のグループリーダー館山佳氏、ナノ材料科学環境拠点のポスドク研究員の春山潤氏らの研究グループで行われた。
同研究では、第一原理計算と反応経路の探索手法を組み合わせ、メチルアンモニウムヨウ化鉛(CH3NH3PbI3、以下MAPbI3)とホルムアミジニウムヨウ化鉛((NH2)2CHPbI3、以下FAPbI3)という代表的なペロブスカイト材料内の、空孔を介したイオン拡散メカニズムについて調べた。その結果、末に予測されていたヨウ化物イオン(Iー)に加えて、これまで注目されて来なかった陽イオン分子(MA+など)も容易に拡散し得ることを世界で初めて証明できたという。
図2は、MAPbI3内におけるMA+イオンとIーイオンの拡散経路の模式図である。今回の研究では、ヨウ化物イオンはMAPbI3、FAPbI3ともに、拡散障壁が約0.45eVで、この値はヨウ化物イオンが室温で容易に移動することを示している。さらにMA+イオンが0.57eV、少し大きいFA+イオンが0.61eV程度の拡散障壁しか持たないことが分かった。
図2 MAPbI3内におけるMA+(中央上)とIーイオン(中央下)の拡散経路の模式図。赤色の状態から白色の経路を通って青色の状態に到達する。前者の活性障壁が0.57eV程度、後者が0.45eV程度であり、室温で陽イオン・陰イオンともに十分拡散することが証明された 出典:JST
この値は、通常のイオン伝導体と比較しても小さい方であり、陽イオン分子も容易に拡散することを示す。これまで陽イオン分子のペロブスカイト構造内での回転についてはよく議論されてきたが、今回の理論計算により回転に加えて空孔媒介により隣のAサイトに容易に移動することが証明された。これは発電時にペロブスカイト材料に電場が誘起される際にさらに促進されることが予想できる。
ペロブスカイト構造Aサイトの陽イオン分子は、ペロブスカイト構造のサイズを決める役割を持つことが知られており、陽イオンの移動・流出・流入は、ペロブスカイト材料の安定性に大きなダメージを与えることが予測できる。つまり、早い劣化や変換効率測定におけるヒステリシス出現の、原子レベルでの主要な起源が、この陽イオン分子の拡散であることが証明できたということになる。
陽イオン分子を容易に拡散させない工夫を
さらに今回の研究では、陽イオン分子をよりサイズの大きいものに置換して拡散を抑制するといった方向性が、劣化やヒステリシスの抑制に有効であることを提案している。また媒介する空孔数を減らした結晶性の良い粒の生成も重要であることも指摘。陽イオンを容易に拡散させないための研究開発を進めることで、劣化速度やヒステリシスの軽減を実現できると示唆している。
今後は大気環境下や連続光照射下など、より実用的な条件における耐久性、安定性について、現在NIMS内で進んでいる新規ペロブスカイト太陽電池開発の実験研究と連携しながら、原子レベル機構の研究をさらに進めていくという。
関連記事
- 再生可能エネルギーの出力制御に課題、運用は電力会社に依存
再生可能エネルギーによる発電設備の導入量を拡大するために、政府は緊急対策として出力制御の新ルールを導入した。太陽光と風力の発電量を抑制することが目的だが、実際に出力を制御する対象を選ぶのは電力会社である。一部の事業者が不利になる可能性があるほか、出力制御の方法も未定だ。 - 九州電力は要対策、太陽光発電の出力抑制の試算が示す
太陽光発電協会(JPEA)は2015年3月、太陽光発電設備に対する出力抑制の影響を公表した。九州電力と東北電力、中国電力を対象としたもの。無制限・無補償の出力制御とはいうものの、九州電力では2017年ごろの年間抑制率は6.9%にとどまるという。ただし、対策を打たないと2021年には23.4%に達する可能性がある。JPEAの試算から分かることは、原子力発電所の運用と地域間系統連系線の活用が年間抑制率に強い影響を与えることだ。 - 家庭用燃料電池で発電した余剰電力を地域で活用、三島市で実証実験
静岡県三島市と静岡ガスは、2015年度中に家庭用燃料電池「エネファーム」で発電した余剰電力を地域で活用する実証実験を開始する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.