太陽光だけで電力需要の8%に、災害に強い分散型の電源を増やす:エネルギー列島2015年版(25)滋賀(4/4 ページ)
滋賀県では太陽光発電を中心に分散型のエネルギー供給体制を強化して災害に強い地域づくりを推進していく。2030年には電力需要の8%を太陽光発電で供給できるようにする計画だ。農地には営農型のソーラーシェアリングを広めながら、農業用水路を利用した小水力発電も普及させる。
木質バイオマス発電に廃棄物を使う
滋賀県は周囲の県境に山が連なっていて、環状に森林が広がり、川には治水用のダムが設けられている。県が管理する治水ダムの1カ所で小水力発電の導入プロジェクトが進行中だ。岐阜県に隣接する米原市の山間部にある「姉川ダム」で建設工事が始まっている(図7)。
ダムから下流の自然環境を保護するために放流している「河川維持流量」を利用して発電する。地域の有力企業2社が連合体を組んで発電事業に取り組むプロジェクトだ。農業用水路と違って52メートルの落差があるダムからの水流を生かして、発電能力は830kWと大きい。年間の発電量は470万kWにのぼり、一般家庭で1300世帯分に相当する。
運転開始は2016年7月を予定している。発電事業者の2社のうち1社は米原市内に本社があり、もう1社は30キロメートル離れた大垣市にある。この2カ所から小水力発電設備を遠隔で監視できる体制をとって、非常時にも迅速に対応できるようにする。
滋賀県の再生可能エネルギーの導入量は太陽光発電が圧倒的に多い(図8)。それでも中小水力とバイオマスが徐々に増えてきた。バイオマス発電では姉川ダムの小水力プロジェクトに参画した地元の山室木材工業グループが、県内で初の木質バイオマス発電所を2015年1月に稼働させた。
山室木材工業は木材の加工のほかに木質廃棄物のリサイクル事業を運営している。収集した木質廃棄物からチップを製造して燃料に再生させる。木質チップを活用した発電事業を開始するために、2012年に「いぶきグリーンエナジー」を設立して発電所の建設に乗り出した。
米原市内で運転を開始した木質バイオマス発電所は3.55MWの電力を供給することができる(図9)。1日24時間の連続運転で、1年間に330日の運転を予定している。年間の発電量は2800万kWhになり、7800世帯分の電力を供給することができる。米原市の総世帯数(1万4000世帯)の半分以上をカバーできる規模だ。太陽光や小水力と比べてバイオマス発電の電力供給量は格段に大きい。
1日に使用する木質チップは140万トンにのぼる。森林資源が豊富な他県のように間伐材などを大量に調達できる環境になくても、廃棄物を利用すれば木質バイオマス発電を拡大することができる。2030年に向けて再生可能エネルギーを増やす滋賀県の取り組みは一歩ずつ前進していく。
*電子ブックレット「エネルギー列島2015年版 −関西編 Part1−」をダウンロード
2016年版(25)滋賀:「官民連携で広がる太陽光と小水力発電、原子力を代替する災害に強い電源」
2014年版(25)滋賀:「琵琶湖の南にメガソーラー40カ所、市民共同発電の勢いも加速」
2013年版(25)滋賀:「電力会社に依存しない未来へ、県内15カ所で進むメガソーラー建設」
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