福島県の温泉で地熱発電を開始、139度の温泉水から500世帯分の電力:自然エネルギー
東日本大震災の被害を受けた福島県の温泉が再生可能エネルギーによる町づくりを進めている。豊富に湧き出る温泉水を利用して地熱発電を開始した。国の支援を受けて導入したバイナリー発電設備で500世帯分の電力を供給することができる。近くの川では小水力発電所も動き始めている。
地熱発電を実施した場所は、福島市から15キロメートルほどの距離にある土湯(つちゆ)温泉だ。源泉の1つである「16号源泉」から湧き出る熱水を発電設備に取り込んで、11月16日に運転を開始した(図1)。地元の温泉協同組合が中心になって設立した「つちゆ温泉エナジー」が発電所を運営する。
発電設備は米国オーマット社が開発したバイナリー方式の装置を採用した(図2)。発電能力は400kW(キロワット)で、年間の発電量は260万kWh(キロワット時)を想定している。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して720世帯分の電力を供給することができる。
発電した電力は内部で消費した後の余剰電力350kW分を固定価格買取制度で売電する予定だ。買取価格は1kWhあたり40円(税抜き)になり、年間の売電収入は約9000万円を見込める。買取期間は15年間である。
バイナリー方式は温泉水を利用した発電設備で標準的に使われている。100度以下の熱でも蒸発する媒体(ペンタン)を使ってタービンを回転させる発電方法だ。発電した後に温度が下がった温泉水は成分が変わらないため、そのまま旅館などの温泉施設に供給することができる(図3)。
土湯温泉の16号源泉からは139度の温泉水が湧き出る。この温泉水を蒸気と熱水に分離してから、熱水で媒体の温度を上げたうえで蒸気の熱で蒸発させる仕組みだ(図4)。バイナリー方式では蒸発した媒体を冷却して液体に戻してから再び発電に利用する必要があるため、近くの池から湧水を取り込んで冷却用に使う。その後で熱水と湧水を混ぜて温泉施設に供給する。
この地熱発電プロジェクトは国がバックアップして実施した。発電事業者が金融機関から調達する5億5700万円の資金に対して、国が出資するJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)を通じて80%相当を債務保証した(図5)。国内に豊富に存在する地熱資源の開発を促進するための財政投融資の一環だ。土湯温泉のほかにも、大分県の九重町で2015年6月に運転を開始した「菅原バイナリー発電所」が同様の債務保証を受けている。
土湯温泉では東日本大震災の影響を受けて観光客が激減したことから、自然エネルギーで温泉街の魅力を高める復興策に2012年から乗り出した。地熱だけではなくて、温泉街を流れる川の砂防堤堰を利用した小水力発電(発電能力140kW)を2015年4月から開始している。地熱発電と小水力発電の収益を復興資金に生かす。
関連記事
- 地熱と小水力のダブル発電へ、福島の温泉町が風評被害を乗り越える
福島県の中通りにある土湯温泉は震災と原発事故による風評被害を受けたために、16軒あった旅館のうち5軒が廃業してしまった。温泉町の再生に向けて、地元の温泉事業者などが地熱発電と小水力発電のプロジェクトを立ち上げ、2015年の稼働を目指して2つの建設工事を開始する。 - 低温の地熱でも発電できる、大分県の火山地帯から8300世帯分の電力
日本で地熱発電が最も活発な大分県の九重町に、九州電力グループが新しい地熱発電所を運転開始した。100度前後の低温の地熱でも発電できるバイナリー方式を採用して、一般家庭で8300世帯分の電力を供給することができる。地元の九重町が蒸気と熱を提供して使用料を得るスキームだ。 - 温泉発電で町おこし、「湯の花」を抑えて年間3000万円の収入に
長崎県の雲仙岳のふもとにある小浜温泉は地熱バイナリー発電の導入で知られる。3年間にわたる実証実験で明らかになった課題をもとに、発電設備を改造して商用化にこぎつけた。温泉から発生する「湯の花」の付着対策などを実施して9月2日に売電を開始することができた。 - 湖畔の温泉で地熱発電を開始、発電後の温泉水は保養施設や農園へ
地熱資源が豊富な鳥取県の日本海沿岸部で、温泉水を利用した発電事業が始まった。100度以下の地熱でも発電できるバイナリー方式の装置を導入して、最大20kWの電力を作ることができる。さらに発電後の温泉水を近隣の保養施設や農園に供給して地熱を無駄なく利用する予定だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.