豚の排せつ物からバイオガスを作る実証試験、飼育数が全国一の鹿児島県で:自然エネルギー(2/2 ページ)
黒豚の産地として有名な鹿児島県では、養豚に伴って発生する大量の排せつ物の処理が地域の大きな課題だ。排せつ物を発酵させてバイオガスを製造する実証試験が鹿児島大学で進んでいる。バイオガスの製造工程で生じる消化液を活用して、バイオマス燃料になる植物の栽培試験にも取り組む。
家畜の排せつ物でバイオガス発電も
鹿児島県は豚の飼育数が全国で最も多く、約140万頭にのぼる。2番目に多い宮崎県と比べても2倍近い規模になる。大量に発生する排せつ物の悪臭が周辺地域の環境に影響を及ぼす一方、排せつ物の処理にかかるコストが養豚業の経営を圧迫している。排せつ物からバイオガスを製造して燃料として販売できれば、処理コストの回収にもつながる。
2012年から再生可能エネルギーの固定価格買取制度が始まり、家畜の排せつ物を利用したバイオガス発電施設が全国各地に広がりつつある(図4)。バイオガスによる電力の買取価格は1kWh(キロワット時)あたり39円と高く設定されていることも追い風になっている。
最近の事例では北海道東部の別海町(べつかいちょう)で、牛の排せつ物を利用したバイオガス発電施設が2015年7月に運転を開始した(図5)。別海町は11万頭の乳牛を飼育する酪農が盛んなところで、毎日4500頭分に相当する排せつ物からバイオガスを製造して発電用の燃料に利用中だ。さらにバイオガスの製造に伴って生じる消化液は牧草の肥料として酪農家に提供している。
鹿児島大学にバイオガス化装置を導入したリナジェンは、大阪府の岸和田市で食品廃棄物を利用したバイオガス発電施設を建設して2015年8月に稼働させた(図6)。このほかにも消化液から生成した肥料を農作物の栽培に活用できるように、三重県の小麦畑で実証試験に取り組んでいる。
日本の農林水産業が目指す方向の1つに、廃棄物を利用したバイオマスエネルギーで循環型の生産システムを構築することが考えられる。地域産業の活性化とエネルギーの地産地消を進める対策として注目度が高まっている。
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