「いつもと違う」を素早く検知、IoTで進化する火力発電所の運用保守:IT活用
エネルギー産業においても、さまざまな「モノ」と「インターネット」がつながるIoTの仕組みを活用する事例が増えてきた。中部電力とNECはIoTを活用した火力発電所の運転支援サービスの開発に着手する。大量の運転データを分析することで、設備故障や発電効率の低下などを予測しやすくする。開発したサービスは国内外の発電事業者にも提供していく計画だ。
中部電力とNECは2016年6月24日、国内外の発電事業者向けに、火力発電所の運転を支援するサービス事業を共同で実施すると発表した。火力発電設備のセンサーから得られる大量の運転データをもとに、設備故障の予兆の監視や、発電効率の低下および設備故障の要因分析を行えるようにすることで、発電所の運転の高度化に貢献する。2016年度からサービスの開発に着手し、2017年度中の完成を目指す。
両社は2014年度から火力発電所における運転支援サービスの事業化に向けて、「碧南火力発電所」(愛知県碧南市)などで共同研究を実施してきた。今回その有効性が確認できたため、同事業を共同で実施することにこのほど合意し、基本合意書を締結した。
同システムは中部電力の保有する、火力発電の運転・保守により蓄積した温度や圧力などに関する大量のデータ(ビッグデータ)や火力発電に関する運転保守技術と、NECのインバリアント分析技術、要因分析技術および中部電力とNECが共同で開発した火力発電所の異常を検知、分析するモデルなどを活用。これにより、設備故障の予兆監視や発電効率の低下および設備故障の要因分析を行うものだ(図1)。
インバリアント分析技術は、大量に収集したセンサーデータの中からシステムの特徴を表す普遍的な席係性(インバリアント)を、対象プラント・システムのドメイン知識に頼らずに自動的かつ網羅的に抽出し、モデル化するもの。モデルと一致しない「いつもと違う」挙動をサイレント障害として検知することができる。また、要因分析技術は設備機器などから得られる大量データから、効率低下や故障など品質の悪化要因を分析する技術である。
このシステムを導入することにより火力発電設備の故障の早期発見や、従来の運転員による監視および警報値による監視に加え最新のIT技術を活用することで、網羅的かつ効果的な運転・保守が可能になる。これにより火力発電設備の高効率、高稼働運転の維持に貢献する。
両社は同サービスを国内外の発電事業者へも提供し、その事業者が保有する火力発電設備の運転保守を支援していく考えだ。
関連記事
- 石炭に続いて石油火力発電所が停止、トラブル相次ぐ九州電力
わずか3日間に九州電力の2カ所の火力発電所で設備のトラブルが相次いで発生している。長崎県の石炭火力発電所に続いて、鹿児島県の石油火力発電所が1月21日(水)の深夜に運転を停止した。ボイラーの内部で蒸気の漏れが見つかったためで、復旧に時間がかかる可能性もある。 - 原子力発電所と火力発電所の選別が進む、2030年に設備半減へ
日本の電力システムが抱える問題点の1つは発電設備の老朽化だ。原子力発電所の再稼働が始まったが、その一方で運転開始から40年以上を経過した設備の廃炉に着手する必要がある。火力発電では2030年に向けてCO2排出量の削減が求められるため、LNG火力と石炭火力の高効率化を急ぐ。 - 火力発電所のタービンを更新、燃料費を1基で10億円削減
東京電力が運転開始から20年も経たない火力発電設備の更新を進めている。コンバインドサイクル方式で高効率を発揮する発電設備だが、ガスタービンと蒸気タービンを交換して1基あたりの発電能力を2万7000kW引き上げる。合計8基の更新工事を2018年1月までに完了する予定だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.