有機単層結晶薄膜の電荷分離の様子を明らかに、太陽電池の高効率化に応用へ:太陽光(2/2 ページ)
慶應義塾基礎科学・基盤工学インスティテュート(KiPAS)の渋田昌弘氏、中嶋敦氏らは、有機薄膜デバイスの構成要素であるアントラセン分子の単層結晶薄膜を室温で形成させ、光電変換過程における電荷分離の様子を明らかにすることに成功したと発表した。
電子物性評価に成功
同研究グループは、アントラセン単層結晶薄膜についてフェムト秒時間の精度で光電子分光を行い、光で励起された電子状態が変化する様子を追跡した。平たんな分子薄膜の表面上に2つの特徴的な電子状態(図2(ア))が観測できたという。
1つ目は光で鏡像準位に励起された電子は、表面上を自由電子に近い状態で1.1ピコ秒の寿命で滞在していること。2つ目はアントラセン分子内の電子を励起する光を用いると、この励起子が2.5ピコ秒の間、単層結晶内に閉じ込められることである。
鏡像準位の電子が単層結晶内の励起子と相互採用して表面から飛び出す、という新しい現象を見いだすことにも成功したとする。この現象は、単層結晶中に閉じ込められた励起子が消滅する際に失うエネルギーを、表面上の鏡像準位に滞在している電子が受け取り、その結果電子が表面から飛び出すものである(図2(イ))。
表面上に広がった電子状態は一般的に、分子に局在している励起子とは強く相互作用しない。しかし分子が整列して単層結晶が形成されると、励起子が単層内を広く動き回れるようになり、エネルギーの授受が可能となるものだ。
同研究グループは「この研究成果は、有機光電変換デバイスにおける電荷分離の過程において、電荷が拡散できる範囲を広げることが有効で、そのためには有機分子を整列させた結晶化が効果的であることを初めて実験的に示したものである。有機光電変換デバイスを高効率化するための基盤技術として利用価値が高いと考えられる」とした。
関連記事
- 世界記録の効率16.2%、太陽光で水素製造
太陽光を利用して水素を製造できるデバイスの研究開発が進んでいる。米NREL(国立再生可能エネルギー研究所)の研究グループは、これまでの世界記録を2.2ポイント上回る効率16.2%のデバイスを開発した。 - 神戸大学、変換効率が50%超える太陽電池構造を発表
神戸大学は、従来セルを透過して損失となっていた波長の長い太陽光のスペクトル成分を吸収して、太陽電池セルの変換効率を50%以上まで引き上げることができる技術を発表した。 - 紙のようにロール印刷、ペロブスカイト太陽電池
太陽電池の製造コストを劇的に抑える手法の1つがロールツーロール法だ。印刷物と同様、ロール状のシートを巻き取りながら発電に必要な層を印刷していく。オランダSollianceは分速5メートルでペロブスカイト太陽電池の製造に成功。変換効率は12.6%である。 - 最も普及する太陽電池で世界記録、カネカが変換効率24.37%達成
世界で最も普及しているシリコン結晶太陽電池。そのモジュール変換効率で、カネカが世界最高となる24.37%を達成した。NEDOが進める日本の太陽光発電のコスト削減計画を前進させる成果だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.