電力を輸出入する時代へ、世界最大市場の北東アジアに:日本とアジアをつなぐ国際送電網(1)(4/4 ページ)
いまや通信と同様に電力の領域でも多国間のネットワークが広がる。日本や中国を含む北東アジアに国際送電網を構築するプロジェクトが動き始めた。世界最大の電力市場に新たな競争がもたらされるのと同時に、各国をつないだ広域ネットワークで電力の安定供給を図りながら、自然エネルギーの電力を一気に拡大できる。
急増する自然エネルギーの電力を融通
国際送電網は自然エネルギーの電力を拡大するうえでも有効な手段になる。この点は先行する欧州で実証済みである。天候によって出力が変動する風力発電と太陽光発電を地域間で平準化しながら、余った電力を需要が大きい国・地域に国際送電網を通じて供給できる。
北東アジア5カ国の電源構成を見ると、国によって大きな違いがある。中国とモンゴルでは石炭火力が多く、日本とロシアは天然ガス火力が多い(図10)。韓国では原子力が30%を超えている。そうした中で各国に共通する点は、自然エネルギーの電力が急速に拡大していることである。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の統計によると、北東アジア5カ国における風力発電と太陽光発電の設備容量は2010年から2016年の間に6倍に拡大した(図11)。累積で約280GW(ギガワット)に達する規模になり、設備容量を単純に比較すると大型の原子力発電(1基あたり約1GW)の280基分に相当する。
国別・種別に見ると中国の風力発電が半分以上を占める他、次いで中国と日本の太陽光発電の規模が大きい。今後は中国以外の4カ国でも風力発電の拡大が見込めることに加えて、中国・日本・韓国では太陽光発電が2030年に向けて大幅に伸びていく(図12)。ロシアでは2030年から2040年にかけて水力発電の増加も期待できる。
それぞれで特性が異なる自然エネルギーの電力を国際送電網で融通することによって、各国内では対応しきれない需給バランスの問題を解決しやすくなる。特に日本では北海道や九州で風力発電と太陽光発電が急増した結果、各地域の送電網に接続する発電設備に対してさまざまな制約が課せられている。日本で自然エネルギーの電力を拡大するうえで最大の課題は送電能力を増強することだが、その点でも国際送電網が有効な解決策になる。
北東アジアは世界で最大の電力市場である。中国・日本・韓国の市場規模を合わせると北米よりも大きく、欧州の約2倍に匹敵する(図13)。すでに国際送電網が有効に機能している欧州の例を参考にすれば、より規模の大きい北東アジアでも国際送電網を効率的に整備して運用することが可能になるだろう。
連載第2回:自然エネルギーへ移行する欧州、多国間で電力の取引量が拡大
連載第3回:中国・モンゴル・ロシア間で電力を輸出入、日本に必要な制度改革
筆者プロフィール
自然エネルギー財団
自然エネルギーを基盤とする社会の構築に向けて、政策・制度・金融・ビジネスモデルの研究や提言に取り組む公益財団法人。日本を含むアジア各国で自然エネルギーによる電力を最大限に活用できることを目的に、2016年7月に「アジア国際送電網研究会」を発足して事務局を務める。同研究会は電力系統やエネルギー政策の研究者、自然エネルギーの専門家で構成。世界の国際送電網を調査して、アジアにおける国際送電網の可能性について提言する。2017年4月に中間報告書をまとめた(自然エネルギー財団のWebサイトからダウンロードできる)。
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