風力発電の変動を水素で吸収、北海道で「Power to Gas」実証:自然エネルギー
北海道で再生可能エネルギーで発電した電力を水素に変換し、有効利用する「Power to Gas」の実証が始まる。風力発電の電力を利用するもので、出力変動の解決策としても期待される。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と豊田通商、NTTファシリティーズ、川崎重工業、フレイン・エナジー、テクノバ、室蘭工業大学は、2017年11月下旬から北海道苫前町の町営風力発電所「夕陽ヶ丘ウインドファーム・風来望」で水素エネルギーのPower to Gas実証事業を開始すると発表した。Power to Gasは再生可能エネルギーからの電力(Power)を水素(Gas)に転換し、利用するシステム。ここでは、気象条件で発電量が大きく変動する風力発電の利用率向上のため、発電した電力の一部を水素に変換するとともに、熱エネルギーとしても有効活用する新たなエネルギーシステムの実現と、ビジネスモデルの確立を目指す。
水素は、使用時に二酸化炭素(CO2)を排出しないこと、電気や熱など多様な利用方法が可能であることから、将来の二次エネルギーとして期待されている。水素が有する環境性を最大化するためには、製造段階でもCO2を発生しない、または最小化することが必要だが、再生可能エネルギーを利用した低CO2の水素製造は、効率面、コスト面で課題が残っている。一方、導入が進む風力や太陽光などの再生可能エネルギーは、気象条件によって発電量が大きく変動すること、需給のアンバランスが発生することなどが、さらなる普及の拡大に向けた課題とされている。
そこで、同事業では、低CO2の水素を製造すると同時に、これからの再生可能エネルギーの利用拡大を見据えた課題を、水素を活用することにより解決するための技術開発を行う。具体的には、出力変動が大きな風力発電設備に対して、安定的に売電できる電力量を予測し、模擬的に売電することで、電力系統の安定化を図る。さらに、有効活用が難しい不安定な電力を水素に変換して輸送・貯蔵することにより、燃料として有効活用するシステム技術開発を実施する。
NEDOなど7者は同事業を2015年2月に開始し、これまでにビジネスモデルの設定や実証試験の計画立案、各設備の設計・製作および試運転を通した各設備の性能検証を進めてきた。11月下旬からは、苫前町の協力によりすべての設備を稼働させ、一連のシステムとビジネスモデルの検証を開始する。
実証実験では、さまざまな技術を使い、風力発電の不安定さ、水素の持つ特性など、それぞれのメリット、デメリットを調和させ、効率的なエネルギー活用を可能にする技術を実証していく。主な実験項目は風力発電量を予測するシステムの予測精度の検証、売電する電力量と水素製造に利用する電力量の最適配分を行う制御の検証、変動の大きな風力発電電力に対する水電解装置の性能検証、水素を輸送するために別の物質に変換するための水素添加装置や、必要な時に再び水素に戻す脱水素装置の性能検証と、実証モデルの経済性の検証などとなっている。
実証設備の動作の流れは、まずNTTファシリティーズが開発した風力発電量予測システムで翌日の風況・発電量予測を行う。その情報をもとに、川崎重工業の制御システムを用いて安定的に供給できる電力量(安定電力)と水素製造に用いる不安定電力を計算し、同社開発の水電解装置を用いて水素を製造する。次に、製造された水素を、フレイン・エナジーが開発した水素添加装置を使いトルエンと反応させ、MCH(メチルシクロヘキサン)を生成し、需要先に陸上輸送で配送する。需要地で同社開発の脱水素装置によりMCHを水素とトルエンに分離し、水素とLPGを混焼ボイラーで熱利用する仕組みだ。
なお、豊田通商は実証の代表企業として、事業性の分析や将来のビジネスプラン策定を担当。テクノバは豊田通商とともに、事業性の分析やビジネスプラン策定を行う。室蘭工業大学はフレイン・エナジーとともに脱水素装置の性能を向上させるための脱水素触媒の開発に取り組む。
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