地域エネルギーマネジメント設備市場、2030年度に250億円規模へ:エネルギー管理
矢野経済研究所が国内の地域エネルギーマネジメント事業に関わる設備・システムの市場調査予測を公表。市場規模は2018年度の200億円から、2030年度には350億円に拡大すると予測している。
矢野経済研究所は2018年10月、国内の地域エネルギーマネジメント事業を調査(調査期間2018年5〜9月)し、同事業における設備・システムの構築市場規模推移を公表した。それによる同市場規模(当該年度中に完成した設備・システムの導入・構築費用ベース)は、2018年度の200億円から、2020年度は250億円、2030年度には350億円に拡大すると予測している。
今回の調査では、スマートコミュニティ(あるいはスマートシティ)事業の中で、電力自営線を使用して、地域の需要に合わせて管理制御したエネルギーを供給する事業を地域エネルギーマネジメント事業と定義した。電力自営線は地域エネルギーマネジメント事業者が自ら設置・管理する送配電線であり、電力系統停電時においても自立した電力供給が可能となる。
地域エネルギーマネジメント事業は、平常時にはCEMS(Community Energy Management System)によるエネルギー需給の最適管理制御を実施し、省エネやCO2排出削減を行い、非常時(電力系統停電時)には電力自営線を使用した電力供給により、地域内の各施設のBCP(事業継続計画)に貢献する。
同事業ではエネルギー供給のための設備・システムとして、再生可能エネルギー発電設備やコージェネレーション設備、電力自営線、熱導管、CEMSなどが導入・構築される。それらの設備導入には初期コストがかかるが、省エネ運用によるエネルギー費用の削減効果により、設備投資費用は回収できるとともに、その後は経済的メリットが継続するという仕組みだ。
同事業が成立するためには、対象となる地域内でエネルギー需要が集中しており、低コストのシステムでエネルギーの供給と融通ができることが必要である。CEMSはICT・クラウドのシステムであるため、対象となる施設・設備が分散して配置されていても問題ないが、地域内のエネルギー(電気、熱)需要施設が分散していると、エネルギー供給・融通のための電力自営線や熱導管の敷設コストが距離とともに大きくなり、地域エネルギーマネジメント事業が経済的に成立しなくなる。
エネルギー需要が集中するケースとしては、次の3つのパターンが考えられる。
- 地方自治体において、複数の隣接する公共施設などに、地産地消の再生可能エネルギーなどによる電力を供給する(地方・郊外)
- 都市部の再開発プロジェクトなどにおいて、隣接する複数の縦方向に集積した高層ビルなどに、コージェネレーションシステムなどによる電力と熱を供給する(都市開発)
- 工業地帯などにおいてエネルギー需要の大きい隣接する複数の工場に、コージェネレーションシステムなどによる電力と熱を供給する(工業地帯:工業団地、コンビナートなど)
電力自営線による特定供給については、もともと、工業団地・コンビナート内などにおいて自家発電した電力を他の工場や子会社などに供給することを認める制度として存在していた。従来の特定供給の制度では、供給者の発電設備により需要の100%を満たすことが必要であり、電力会社(一般電気事業者)などのバックアップを得ることは不可とされていたが、2012年10月に規制が緩和されて、需要の50%以上を満たす供給であれば許可されるようになった。これにより、自家発電設備において、託送受電によるバックアップ電力を得ながら複数建物に電力供給できるようになり、地域エネルギーマネジメント事業の市場を立上げ拡大させる契機となった。
また、同事業は「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」に依存しない再生可能エネルギー普及の一つの方向性として地産地消があり、地域エネルギーマネジメント事業はその方向性に沿っている。
さらに、都市部や工業地帯などでは、施設群においてエネルギー需要が集中していることから、分散型電源としての天然ガスコージェネレーションシステムを導入して、面的に熱電併給する方法が有効であり、これも地域エネルギーマネジメント事業が伸びていく理由の一つになるとしている。
現状では、電力系統の連系枠が限られている場合が多く、再生可能エネルギー発電の電力を逆潮流させない前提で多くの地域エネルギーマネジメント事業のシステムが構築されている。既存の電力系統を他の電力事業者が地域を区切って使用することはできない。しかし、電力事業改革が進む2020〜2025年以降には、これらの規制が緩和されていくことが期待されており、そうなれば地域エネルギーマネジメント事業は大きく拡大する見込みとしている。
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