「再エネ+蓄電+水素」の新型システム、太陽光を72時間にわたり安定供給:自然エネルギー
東北大学と前川製作所は、蓄電および水素貯蔵システムを組み合わせた「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」の実証で、72時間にわたって太陽光発電の電力を安定供給することに成功した。
東北大学と前川製作所は2018年10月、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業で、仙台市の「茂庭浄水場」に構築した電力と水素の貯蔵設備を組み合わせた「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」による実証の結果、72時間(3日間)の連続運転に成功したと発表した。これにより、太陽光発電の出力や負荷消費電力の不規則な変動に対しても、再エネ由来の電力を高品質かつ長時間安定供給できることを実証したとしている。
東日本大震災では約4日間の停電があり、宮城県内の石油備蓄基地の被害や物流の遮断により燃料確保が困難となった。そのため、仙台市の主要な浄水場では機能維持に大きな労力が費やされた。これらの浄水場には非常時を想定し、ディーゼル発電機を導入しているが、災害時には燃料輸送や確保が困難かつ、あらかじめ大容量タンクに備蓄しておくと経年変化で動作不良につながる恐れがある。一方、太陽光などの再生可能エネルギー電源を活用するには、需給変動を正確に制御するのに即応性・大容量性・耐久性を兼ね備えたエネルギー貯蔵装置が必要で、全ての要求に応えるには複数のエネルギー貯蔵装置を組み合わせる必要がある。
そこで両者はNEDOの事業で、大容量のエネルギー貯蔵とエネルギー需給の不規則な変動の補償を目的に、共同実施先である日本ケミコン、神鋼環境ソリューション、北芝電機とともに電力・水素複合エネルギー貯蔵システムの開発に取り組んできた。
大容量非常用電源を確立するための技術課題に対しては、大容量エネルギー貯蔵にエネルギー密度の高い水素吸蔵合金または液化水素タンクの導入と、太陽光発電出力と負荷消費電力の差分に対し、両者の差分の変動を長周期変動分と短周期変動分に分解して、長周期変動分を水素貯蔵システムで、残りの短周期変動分を電力貯蔵装置で補償するシステムを考案。
さらに、DC BUSと水素BUSを設け、長周期変動分を補償する水電解装置入力と燃料電池出力については電力制御(アクティブ制御)、短周期変動分を補償する電気二重層キャパシタについては電圧制御(パッシブ制御)を行う。また、電力貯蔵システムと水素貯蔵システムのエネルギー貯蔵量は逐次測定し、常時の変動補償制御と並行して、両エネルギー貯蔵量がそれぞれの目標範囲内に収まるようにエネルギー貯蔵量を制御するといった手法を導入した。
このシステムの有効性を確認するため、仙台市茂庭浄水場に20kW(キロワット)の実証システムを構築し、2017年8月より大規模自然災害による長期停電を想定した連続運転を実施。その結果、2018年10月4〜6日の3日間、合計72時間の連続運転に成功した。
NEDOは今回の成果について、「電力・水素複合エネルギー貯蔵システムが実用化可能な技術レベルにあることを示すもの」とし、化石燃料が不要で、非常時でも高品質な電力を長時間安定して供給できるという特性から、CO2フリーの新たな非常用電源として、浄水場をはじめ、各自治体の大規模自然災害発生時の避難場所などへの導入が期待されるとしている。
今後同事業では、実証システムの信頼性の向上および早期実用化に向けて、システム試験を継続して行い、関連データの蓄積を進めるとともに、さまざまな天候や運転条件において長時間連続運転を実施する予定だ。
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