「誰でも参加できる電力市場」の実現へ、運用開始が迫るデジタルグリッドのP2P電力取引基盤とは?:エネルギー管理(3/3 ページ)
東京大学発のスタートアップ企業、デジタルグリッド。同社が構築したP2P電力取引プラットフォームが、2020年1月に動き出す。2019年7月に就任した新社長、豊田祐介氏にその具体的な事業スキームとビジョンを聞いた。
自家消費再エネの「環境価値」を創出し、取引可能に
――「環境価値」とは何ですか。それはどのように創出され、取引可能なものになるのですか。
豊田氏 私たちは、生の電力だけでなく、再生可能エネルギーで発電した電力がもつ「環境価値」の取引もサポートしていきます。RE100加盟企業をはじめ自社で使う電力の再エネ比率向上を目指す需要家は、できるだけ多くの再エネ電力を調達したいわけですが、その量には限りがあります。そこで足りない分は、実際の電力とは別に、「グリーン電力証書」や「Jクレジット」「非化石証書」などを購入して、環境価値を補填することになります。しかし、このコストは決して小さくありません。
当社では、自家消費されている再エネ電力の環境価値を、ブロックチェーンを使ってきちんと認証し、その環境価値を取引できる仕組みを構築しています。環境省のモデル事業として実証に取り組んでおり、今年で2年目となります。
基本的には、自家消費用の再エネ発電設備にデジタルグリッドコントローラー(DGC)を設置し、発電するごとに環境価値を創出。そこで生まれた環境価値をデジタルグリッドプラットフォーム(DGP)で販売できるようにします。需要家にとっては、身元のしっかりした環境価値を確実に購入できる道が開けるというわけです。なお、この環境価値はJクレジットの「プログラム型プロジェクト」としても認証されていますので、DGPに参加していない企業でもJクレジットを通して入手することができます。
系統との「非同期連系」で、大停電のリスクを回避
――はじめにお話のあった「分散電力ネットワーク」について、具体的内容を教えてください。
豊田氏 電力系統との「非同期連系」により、必要に応じて系統から切り離すことのできる分散電力ネットワーク(セル)の構築。それが、いま私たちが、埼玉県の浦和美園で進めているプロジェクトです。この非同期連系というところが当社独自の技術であり、従来の「同期連系」の課題を解決するものでもあるのです。
――「非同期連系」がポイントなのですか。それは、どのように実現されるのですか。
豊田氏 非同期連系とは、系統側の交流の電気の流れを、セル内の交流の流れに乗せる際に、いったん直流に変換してから交流に戻して使うシステムです。系統側で交流の乱れが生じても、直流を挟ませることでキャンセルし、セル内の交流の周波数を正常に保つことができます。いざというときには系統を切り離して、セル内の再エネや蓄電システムだけでやっていくことも可能です。万が一、系統で大停電が発生したとしても、その影響を回避することができます。
そして、この非同期連系を実現するが、当社が開発したデジタルグリッドルータ(DGR)という装置です。DGRを導入することで、セル内の交流の乱れが系統に影響を与えることもなくなるので、再生可能エネルギーの受け入れ可能量増加にもつながります。
――浦和美園プロジェクトの進捗状況について教えて下さい。
豊田氏 浦和美園の分散電力ネットワーク(セル)は、環境省の「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」として進めているもので、イオンモール浦和美園と地域内のミニストップ店舗、一般家庭5軒から構成されています。イオンモールと一般家庭それぞれに太陽光発電設備と蓄電池、そしてDGRを設置しました。発電した電力については、デジタルグリッドプラットフォーム(DGP)でのP2P取引により、地域内で融通しあっています。災害時に備えて、電力の自立運営についても検証しているところです。
異業種からの参入を促し、「分散化」を推進
――豊田社長は、これからの電力業界を、どう変えていこうと考えているのでしょうか。今後の展望をお聞かせください。
電力の世界は「分散化」が重要なテーマであり、そこでは再生可能エネルギーが主役です。その中で、私は2つのことを成し遂げたいと思っています。再エネは、限界費用がほとんどゼロの電源です。もっともっとコストを下げていくことができます。自然の恵みである再エネを、自由に使える、エネルギー制約のない世界。これまで人々は、エネルギーのことで争ってきたわけですが、そういったところから解放されるような世界をつくりたいと思っています。それが、まず1つ目です。
それを成し遂げるためにどうしたら良いかというと、まさに分散化していくことなのです。これが、2つ目です。例えばメディアでも、大手テレビのキー局が一方的に情報を発信していた時代から、Youtuber(ユーチューバー)と呼ばれる人達がそれぞれに情報を発信するようになるなど、分散化が進んでいます。若者をはじめ、いろいろな人たちがアイデアを持って、新しい物事が生まれる社会になってきたと感じます。電力の世界にも、そうした動きがあって良い。電力の世界は比較的硬派な産業ですが、今後は分散化によって、もっと多様で柔軟な仕組みが生まれてくると思っています。電源が分散されるというだけではなく、いろいろな人たちにプレーヤーとして入ってきてもらい、もっと活性化していかなければなりません。
電気をいままで取り扱っていなかった人たちにも入ってきてもらいたい。ハウスメーカーもそうですし、場合にはよってはゲーム会社の人たちが入ってくるかもしれない。そのときのためにも、電気の複雑な世界をシンプライズするというのが、私の中の課題でもあります。お話しさせていただいた、専門資格がなくても参加できる新しい電力の取引場デジタルグリッドプラットフォーム(DGP)にも、そうした想いが込められています。この世界に新しい風を吹き込んでいきたいと思っています。
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