「水素発電所」の実現へ前進、神戸市で水素専焼ガスタービンの実証運転に成功:蓄電・発電機器
川崎重工業、大林組は、川崎重工業らが新しい方式の水素専焼ガスタービンの実証運転に世界で初めて成功。燃焼時に排出する窒素酸化物が少なく、発電効率も高いのが特徴だという。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、川崎重工業、大林組は2020年7月21日、川崎重工業が開発した「マイクロミックス燃焼」技術を活用した水素専焼ガスタービンの技術実証試験に成功したと発表した。ドライ燃焼方式は従来式よりも発電効率が高く、水素燃焼の課題であるNOx (窒素酸化物)の排出量も低減できるのが特徴で、実証運転の成功は世界初だという。
NEDOは「水素社会構築技術開発事業」を進めている。その中で、2017〜2018年度にかけて、川崎重工と大林組は、神戸市や関西電力などの協力を得て、局所的な高温燃焼の発生によるNOx生成を抑制するため「水噴射方式」を採用した水素ガスタービンの実証試験を実施してきた。この実証を通して、世界で初めて神戸市ポートアイランドにおいて水素専焼による市街地への熱電併給も達成している。
従来の水噴射方式では、NOx排出量を抑えるために火炎の高温部へ水をスプレー状に噴射していたが、水の蒸発による発電効率の低下を伴う。またドライ燃焼方式は、燃焼速度が速い水素燃焼において火炎の逆流を抑えながらいかに燃焼を安定させるかが課題であった。そこで、川崎重工が開発を進めてきた微小な水素火炎を用いた燃焼技術「マイクロミックス燃焼」を生かし、世界で初めてドライ低NOx水素専焼ガスタービンを開発し、2020年5月から神戸市ポートアイランドで技術実証試験を開始した。
この水素ガスタービンと排熱回収ボイラーを組み合わせたコージェネレーションシステムからは、約1100kW(キロワット)の電力と、約2800kWの熱エネルギーを蒸気または温水にて周辺の公共施設へ供給することができる。
実証運転は2020年5月から年度末まで断続的に行う。本水素ガスタービンから発生した熱と電気を近隣施設に供給するシステムの技術実証についても、今秋から神戸市ポートアイランドで開始する計画である。ドライ燃焼方式による水素発電の安定運用および発電効率や環境負荷低減効果などの性能を検証する予定である。
ガスタービンの技術実証と併せて、燃料となる「水素」と地域コミュニティーの近隣施設で利用する「熱」と「電気」を総合管理し、経済性や環境性の観点から最適制御するための統合型エネルギーマネジメントシステムの実証も今秋から実施する。
また、大林組では、-253℃(1気圧)の液化水素の冷熱を有効活用するシステムの研究も行う。ガスタービンの運転に必要な水素は、液化水素を蒸発器で気化させて取り出す。現状では、蒸発器から放出される冷熱のエネルギーを有効に利用できていない。ガスタービンは夏季などには発電出力が低下してしまう。さらに、液化水素の蒸発器は外気との温度差により着霜してしまい、除霜のため運転停止が必要になるといった課題もあった。
今回研究するシステムでは、液化水素を気化したときの冷熱を、ガスタービンの吸気の冷却に活用することで、電力需要の高い夏季における発電出力と発電効率が向上する。中間熱媒体(プロパンガスなど)を用いて液化水素から冷熱を取り出すことで蒸発器の着霜を回避でき、連続運転も可能となる。このシステムが将来的に実用化されると、液化水素の冷熱を無駄なく活用することができ、エネルギーマネジメントシステム全体の高効率化が図れる。
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