新型コロナが太陽光発電に落とす影――実態調査に見る「日本市場への懸念」とは:ソーラーシェアリング入門(44)(3/3 ページ)
ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)について解説する本連載。今回は太陽光発電事業者を対象に実施した、新型コロナウイルスに関する事業への影響調査の結果から、日本の太陽光発電市場の現状分析と展望を考察します。
事業開発やメンテナンスなどへの影響も大きく
自由回答として他にもどのような影響が出ているのかをたずねた項目には、事業開発からメンテナンスまで幅広い意見が寄せられました。「条例などで定められた住民説明会が開催できない」「自治体による許認可手続きが遅れている」「金融機関の融資実行が新型コロナウイルス感染症対策融資を優先するため後回しになった」など、事業開発に絡む影響が見られたほか、「移動制限によってメンテナンスに足を運べない」「メンテナンス委託先の業者が人員手配できずに除草作業が遅れた」といった影響も出ているとしています。
また、資材の納期の遅れに関連して発電所の補修資材が手に入らなかったり、修繕工事が遅れたりしたという回答もありました。移動制限や行動制限などに伴う事業活動の制約による影響のほか、感染症対策が優先される中で行政や金融機関の対応が遅れる・後回しにされるなど、幅広い影響が出ていることが明らかになりました。
政策的な対応を求める声も強く
2021年3月現在、新型コロナウイルス感染症に対する緊急事態宣言が日本政府から発令されているほか、ワクチンの接種も完了目処が2022年2月末頃とされており、感染症の終息に1年以上を要することは確実な情勢です。そうした中、今回の調査において政策対応を望む事項をたずねた項目に対しては、年度単位でさまざまな規制・ルールがあるFIT制度にからむ要望が挙げられました。以下は、複数回答可とした設問に挙げられた政策への要望事項です。
- 事業計画認定申請(新規/変更)に関する期限の延長:59件
- 接続契約の締結時期に関する期限の延長:57件
- FIT制度の運転開始期限の延長:65件
- FIT制度の調達価格の維持や上乗せ:68件
- 関連法令や許認可の申請期間などの延長:43件
日本の太陽光発電市場の先行きにある「懸念」とは
今回の調査により、新型コロナウイルス感染症は太陽光発電事業全体に大きな影響を与えていることが明らかになりました。ソーラーシェアリングであるかどうかに関わらず、資材納期や工事の遅れ、価格上昇、行政手続きや融資、メンテナンスなどあらゆる分野で影響が出ており、その影響がしばらくは続くことが予想されています。
私が特に懸念するのは、FIT制度がこうした社会情勢を考慮せずに運用され続けていること自体の不自然さもそうですが、何よりも今後も資材や工事の価格上昇が続いていくことです。昨年来の影響は太陽光パネルや架台などの多くを頼る中国国内の情勢に始まり、昨秋からは国際物流におけるコンテナ不足と輸送コスト上昇が価格に反映されてきています。さらにこの先は、新型コロナウイルス感染症からのグリーン・リカバリーによる再生可能エネルギー投資の拡大による、資材の「買い負け」が懸念されます。
FIT制度の縮小による国内の太陽光発電市場拡大の抑制に加えて、それ以外の国々でこれまで以上に太陽光発電への投資が増えていけば、取引価格が上昇したり納品を後回しにされたりという事態が想定されます。何ら政策的な刺激策を取らずに現状を放置していけば、もはや日本の太陽光発電市場は誰からも見向きされなくなっていくでしょう。
残念ながら、ソーラーシェアリングも資材面では他の形態の太陽光発電と共通する部分が多いため、この影響を免れることは難しいです。今の日本には、世界的なグリーン・リカバリーの動きに乗り遅れないだけでなく、先頭を走っていくほどのエネルギー政策の大転換が必要だと考えます。
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