見直しが必須の「容量市場」、現状の課題と新たな制度設計の方針は:法制度・規制(4/4 ページ)
将来の電力供給力確保を目的に導入された「容量市場」。既に2020年に第1回の入札が行われたが、足元の電力市場環境の変化を受けて、制度設計の見直しが進められている。2022年4月25日に開催された第64回「制度検討作業部会」で議論された、容量市場の今後に関する検討内容を紹介する。
経過措置(激変緩和措置)の扱いを変更
容量市場では小売電気事業者に対する激変緩和措置(経過措置)として、一定の条件を満たす電源に対する支払い額を控除することが2029年度まで措置されている。
第2回オークションの約定価格は第1回と比べ大きく低下し、北海道・九州以外のエリアプライスは3495円/kWとなり、経過措置考慮後の総平均単価は3109円/kWであった。
これは2021年度メインオークションのNet CONE(電源新設の投資回収にあたり容量市場で正味に回収を必要とする金額)9372円/kWや、既設電源(監視対象電源)の維持管理コスト平均値7522円/kWを大きく下回る水準であり、電源新設はおろか、既設電源の維持すら困難なケースもあると考えられる。
過度に電源の収益を毀損することは、容量市場の本来の目的を損ねるおそれがあるため、第3回(2022年度)メインオークションでは、約定価格がNet CONEの半分以下になった場合には経過措置を適用しないことに変更された。
Net CONE算定のモデルプラント
現在の容量市場のNet CONEはLNG火力発電をモデルプラントとしており、2015年の発電コスト検証ワーキンググループ(WG)の発電コストを基に算定されている。
ところが2021年の発電コスト検証WGでは発電コストが見直され、特に建設費が大きく上昇している。
この2021年WGのコストをもとにNet CONEを試算すると1万5765円/kWとなり、2021年度メインオークションで用いられた9372円/kWから68%上昇することとなる。
容量市場制度では2025年度を目途に、包括的な検証がおこなわれる予定となっており、発電事業者や小売事業者双方の予見性を確保する観点から、現時点ではNet CONE算定諸元の変更を行わない(インフレ率等の経済指標のみを更新する)こととされた。
容量市場オークションはさまざまな制度変更により約定価格が大きく変動しているほか、脱炭素電源の新設等を狙いとした長期的な支払制度や戦略的予備力の新設、供給力公募の恒例化など、供給力kWを巡る環境は目まぐるしく変化している。
事業者の予見性を高める制度環境の整備が求められる。
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