再エネを北海道から東京へ送る「長距離直流送電」、実現への課題と今後の展望:エネルギー管理(3/3 ページ)
日本国内における将来的な洋上風力の導入拡大を見越し、発電した電力を遠方の需要地に送電できる「海底直流送電」の実現に向けた検討が進んでいる。2021年3月からスタートした「長距離海底直流送電の整備に向けた検討会」で議論された、これまでの論点と今後の展望をまとめた。
漁業との協調も重要な課題の一つに
再エネ海域利用法(海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律)では、法に基づく促進区域の指定にあたり、「漁業に支障を及ぼさないことが見込まれること」が要件の一つとされている。また法に基づく協議会を組織する場合、「関係漁業者の組織する団体」をその構成員とすることが定められている。
このため、基本的には漁業に関する「消滅補償」等は発生しないと考えられるものの、海底ケーブル敷設に伴い漁業操業への影響が懸念される場合には、漁業関係者との協議により補償を実施することが想定される。
図5は、我が国の漁業権の概要である。「漁業権漁業」が沿岸2km程度まで存在し、その沖合に「知事許可漁業」や「大臣許可漁業」が広がっている。
海底ケーブル敷設では、多数の漁業組合との協議が必要となるため、協議には一定の期間を要するものと想定される。
海底直流送電線の整備におけるファイナンスの課題
400万kW・900kmの海底直流送電線を新設する場合、その費用は先述の通り1兆円程度掛かることが予想されるが、1社でその費用を担うことは容易でない。
このため検討会では、特定目的会社(SPC)を設立し、コーポレートローンやプロジェクトファイナンスを活用し、資金を調達することが検討されている。
またすでに電気事業法の改正により、地域間連系線等の増強費用を全国で負担する仕組みとして、再エネ特措法上の賦課金方式や全国託送方式等による全国調整スキームが整備されている。
しかしながら、全国調整スキームによって実際の費用回収が始まるのは設備の使用開始後となるため、仮に使用開始まで15年程度を要するならば初期投資分の資金は別途必要となる。このため欧州の事例を参考として、公的ファイナンスによる支援の在り方が検討課題とされている。
NEDOによるフィージビリスタディが進行中
現在、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)によるFS(フィージビリティスタディ)「洋上風力等からの高圧直流送電システムの構築・運用に関する調査」が進められている。
FSではマスタープランに基づき、北海道から本州を結ぶ日本海側と太平洋側の両方の海域での海底ルートを検討することとしている。FSでは具体的な揚陸点選定まではおこなわず、漁業権や地形等から揚陸点として適した沿岸を示すことまでを目的とする。
また直流送電容量としては、電源ポテンシャルに沿った経済効率的な拡張性の観点から、双極2GW(200万kW)構成を基準に、将来的に日本海側と太平洋側の合計容量4GW、8GWと拡張する場合を検討する。
費用の算出については設備や敷設工事費等の初期費用だけでなく、運転開始後の保守管理費用や定期検査等による逸失利益等も含めた、ライフサイクル全体の費用についても具体的に精査する。
また最短でも15年程度は要すると考えられる工期に関しては、海外の優良事例を参考に、これを短縮するための方策についても検討することとしている。
今後の課題は?
検討会に出席したメーカーからは、製品の高出力化・大型化に伴い、試験設備も大型化・高コスト化が進んでおり、これを個社で保有・維持することが困難となっていることが報告されている。同様に、先述の海底ケーブル大型敷設船も個社で保有することは非効率であり高コスト化の一因となり得る。この対策としては、試験設備や船舶等を共同保有・共同利用することが考えられる。
また欧州と日本では、近海の海底地形や堆積物の分布、地震による堆積物の移動などが大きく異なるほか、国内でも日本海側と太平洋側では違いが大きいことが知られている。
このため、海底ケーブルの敷設ルート選定や整備に要する費用を算定するため、早い段階からの現地調査が必要である。
北海道から東京への海底直流送電は、世界的に見ても稀な大規模プロジェクトとなることが想定される。洋上風力発電所の設置と送電線の運用開始のタイミングを一致させるよう、産官学の幅広い協力が求められる。
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