検索
Special

国際基準の再エネ属性証明「I-REC」が日本上陸、その利活用を行える「EneTrack」とは?

再エネ証書の潮流は、「環境価値」から「属性証明」へ――。2023年から日本でも国際的に認知されている再エネ属性証書「I-REC」の商用取引がスタートする。その実現を支える新たなWebプラットフォーム「EneTrack(エネトラック)」は、オンライン上で発電事業者と需要家企業のマッチングを行うことができるこれまでにない国内初のサービスだ。そもそもI-RECとはなにか、そしてその取引が可能なEneTrackの詳細について解説する。

PC用表示
Share
Tweet
LINE
Hatena
PR

 脱炭素経営への取り組みが、企業価値を左右する時代になって久しい。世界的なESG投資の潮流の中で、企業活動において温室効果ガスの排出を減らしていくことは大前提であり、使用する電力を再生可能エネルギーに替えていくことは喫緊のテーマとなっている。

 とりわけRE100や、CDPなどの国際イニシアチブに参画する企業にとって、再エネ電力の調達は喫緊の課題だ。また、再エネの供給側に立つ発電事業者にとっては、今後再エネ需要が拡大すると見込まれるなかで、自社の再エネ発電設備の持つ価値をどのように事業収益につなげるかが大きなテーマとなりつつある。

 再エネ電力の活用方法については、需要家が自ら再エネ発電設備を所有する自家発電(自家消費)、特定の再エネ発電事業者と長期契約を結ぶコーポレートPPA、電力会社の再エネ電力メニューの選択など、いくつかの手段が考えられる。なかでも欧米を中心に広く用いられているのが、「トラッキングによって実現する再エネ属性証書の活用」だ。

 ここでいう「属性」とは、発電設備の所在地や所有者、発電容量などの情報と、発電期間や発電量などの発電実績に関する情報を包括的にまとめたもの。そしてこれらの属性情報を追跡・管理する上でのカギとなるのが「トラッキング」だ。

 適切なトラッキングを実施することによって、再エネから「電力価値」と「再エネ属性に由来する価値」を切り離すことができる。これにより後者を証書化し販売できる形にすることで、需要家は証書の購入で再エネ利用率を高めることができ、発電事業者は証書を販売することで収益を得られるという仕組みだ。再エネ属性証書は、北米では「REC(Renewable Energy Certificate)」、欧州では「GO(Guarantee of Origin)」、それ以外の多くの地域では「I-REC(International Renewable Energy Certificate)」として取引されている。これらはRE100をはじめとする国際イニシアチブに認められている手法であり、グローバルスタンダードとなっている。

日本における再エネ属性証明の課題と現状

 日本にも現在、非化石証書やグリーン電力証書、J-クレジットといった類似証書があるが、いずれもI-RECやGOとは根本的に性質が異なる。I-RECやGOが再エネ電力の属性を証明する証書であるのに対し、日本国内で発行されている各種証書は、基本的にどれも環境価値を証明する証書だ(非化石証書は原子力も含む/J-クレジットは電力だけでなく温室効果ガスの削減・吸収量も対象)。

 I-RECやGOにおける属性証明とは、その電力が再エネであるというだけでなく、どこで、いつ、誰によって、どんな発電方法でつくられたものなのかなど、幅広く詳細な情報を裏付ける。そこには、再エネ電源種別に応じた環境価値も当然に含まれている。もともとI-RECやGOは電力の発電履歴を管理しようとするものであり、属性トラッキング(追跡)システムと不可分なものとして発展してきた。そのため、唯一性・正当性が国際的に認められており、RE100など国際イニシアチブが求める要件にも完全に適合する証書となっている。

 一方、非化石証書をはじめとする日本の証書は国内独自のものであり、環境価値を取引することはできても、詳細な再エネ電源種別や産地などの属性を証明することはできない。そのため、必ずしも国際イニシアチブが推奨する証書とはなっておらず、将来の要件厳密化を見据えて、属性証明トラッキングを基本とするグローバルスタンダードへの転換を求める声も挙がっている。経済産業省は現在、非化石証書に環境価値の由来を付与した「トラッキング付き非化石証書」の制度化を進めているが、属性情報の取り扱いやトラッキングシステムの整備など課題は多い。

グローバルスタンダードな属性証書「I-REC」が日本でも利用可能に

 こうした状況にあって、世界約50カ国で発行されている国際的な再エネ属性証書であるI-RECが、2023年から日本でも本格的に取り扱われることとなった。I-RECは、RECとGOの対象国以外を対象とした再エネ属性証書であり、RECやGO同様に再エネ電力の詳細な属性を証明する。

 トラッキング付き非化石証書とは異なり、1MWh単位で発電と消費のひも付けが実施されているため、電力属性がしっかりと担保されており、RE100やCDPなど国際イニシアチブの要件にも完全適合する、グローバルスタンダードな属性証書であることが大きな特徴だ。※

※地球温暖化対策推進法(温対法)に基づく報告など、日本の制度においてI-RECによるオフセットはできない。環境価値の訴求には、別途非化石証書を取得する必要がある。


I-RECで証明できる価値の概要

 I-RECは、オランダに本部を置くThe International REC Standard Foundation(I-REC規格財団)が管理運用するもので、これまで日本には窓口がなかった。しかし、一般社団法人ローカルグッド創成支援機構が、I-REC規格財団から日本におけるI-REC発行主体(イシュア)の指定を受け、日本でも展開が可能になった。

「I-REC」を取引できるWebプラットフォーム「EneTrack」

 さらに2023年から、I-RECの円滑な取引を可能にするWebプラットフォーム「EneTrack(エネトラック)」が立ち上がり、いよいよ日本でも国際基準に沿った、トラッキングによって信頼性が担保された属性証書の商用展開がスタートする。

 このEneTrackは、I-RECの取引とトラッキングのサービスをWebで提供する日本国内向けのプラットフォームだ。具体的なトラッキングサービスは、「1.発行(属性認証サービス)」「2.移転(名義変更サービス)」「3.償却(属性割当サービス)」の3つからなる。


EneTrackの機能・サービスのイメージ

 「1.発行(属性認証サービス)」とは、再エネ発電事業者が申請した再エネ電源種別や産地・所有者・発電量などの属性情報を認証し、再エネ属性証書を発行すること。まず、再エネ発電事業者が自社で保有する発電設備の情報をレジストリオペレーター(属性証明の登録所を運営する機関/英・エビデント社)に申請した後、発電期間ごとの発電量をイシュアと呼ばれるI-REC発行主体がこれを認証することで、再エネ属性証書が発行される。発行された再エネ属性証書は再エネ発電事業者の取引口座に登録され、EneTrack上で自由に取引(売買)が可能となる。

 「2.移転(名義変更サービス)」とは、再エネ属性証書を所有する再エネ発電事業者から、需要家企業(小売電気事業者も含む、以下同じ)にその証書を販売するサービスであり、この取引に伴い、再エネ発電事業者から需要家企業に証書の名義が変更される。再エネ属性証書は、再エネ発電事業者の取引口座から、需要家企業の取引口座に移されることになる。

 「3.償却(属性割当サービス)」とは、RE100など国際イニシアチブへの報告のために、保有する再エネ属性証書を無効化し、属性証明として使用すること。取引口座にあった再エネ属性証書を償却口座に移転して、再エネ償却証書としてPDFで発行され、国際イニシアチブへの報告に利用できるようになる。そして、償却口座に移転された再エネ属性証書は取引口座に戻すことができないので、証書の唯一性が保証される。この償却によって、再エネ発電事業者が発電した電力と需要家企業が消費した電力のひも付けが1Wh単位で完了する仕組みだ。

 EneTrackではこのように、発行から移転、償却までのI-RECの利活用に関するプロセスを一気通貫に行うことができる。これにより再エネ電力の持つさまざまな価値の重複利用を防止し、需要家が消費した電力の属性およびその価値を、高い信頼性・透明性をもった形で証明することができる。

 なお、EneTrackは日本のITサービス企業SCSKが構築したものであり、同社がプラットフォームオペレーター※として属性情報の登録・移転・償却の手続きを代行する。また、それらのプロセスを日本語Webサービスとして展開することで、再エネ発電事業者・需要家企業それぞれの手続きの煩雑さや複雑さ、言語の問題などが解消されることになった。

※プラットフォームオペレーター認定手続き中。(2022年12月現在)


I-RECの属性証明の仕組み

発電事業者が価格を設定、地産地消の支援にも

 再エネ発電事業者と需要家企業をつなぐEneTrackというWebプラットフォームが立ち上がることで、日本でもI-REC(再エネ属性証明)が普及していくことは間違いない。これまで述べてきたとおり、需要家企業にとって国際イニシアチブに完全適合するグローバルスタンダードを手にできるメリットは大きい。再エネ発電事業者に対しても、これまでにない収益機会など、さまざまなメリットがもたらされることになる。

 SCSKでEneTrack事業開発プログラムリーダーを務める高野元宏氏は、EneTrackについて、再エネ発電事業者・需要家企業それぞれのメリットを次のように整理する。

 「I-RECは再エネ電力の属性に信頼性と価値を与えるものです。発電事業者はEneTrackを使うことで、その価値を容易に可視化し活用することができます。属性証明のためのトラッキングシステムにはブロックチェーンが活用されており、優れた堅牢性と正当性が保証されています。

 EneTrackにおいて再エネ発電事業者は、I-RECに準拠するかたちで発行された再エネ属性証書をすぐに販売することができ、いつでも資金化することが可能です。証書の取引は、実際の電力とは切り離して行われるものであり、電力取引によって得られる収益とは別に、新たな収益源を持つことになります。

 再エネ属性証書の販売価格は、再エネ発電事業者が自由に設定することができ、申請後も柔軟に価格変更が可能です。非化石証書のように入札で決められるものではなく、保有する電源の特徴に合わせた価格を再エネ発電事業者が提示できるのです。

 証書の買い手となる需要家企業は、EneTrack上でマッチングされるので、再エネ発電事業者が労力を掛けて探す必要はありません。また、証書を誰が買ったのかを知ることもできるので、特定の需要家ニーズを意識した証書の発行も可能になります」(高野氏)

 EneTrackによるI-RECの取引は、他の国内証書に比べて扱いが容易であり、自由度も高く、信頼性も担保されている。再エネ発電事業者にとっては、FITに依存した売電ビジネスからの脱却を図り、新しいビジネスモデルを確立するためのツールにしていくこともできるだろう。

 「一方、需要家企業にとってのメリットは、産地や再エネ電源種別などの属性と価格を、希望に合わせて選べるというところが大きいと考えています。このことにより、国際イニシアチブへの活用だけでなく、地元の太陽光発電の属性証書を購入して再エネの地産地消を応援するなど、企業価値向上に向けた様々な取り組みも可能となります。

 証書の購入や償却は、EneTrackのサービス提供時間内であれば、いつでも手軽に行えます。また、プラットフォームオペレーターの口座で再エネ属性証書を預かる運用を取るため口座開設は無料であり、基本的に初期費用はかかりません※」(高野氏)

※発電事業者の発電設備の情報登録には別途登録費用が発生します。

 I-RECの価格は、EneTrackというWeb上のプラットフォームにおいて、再エネ発電事業者と需要家企業のマッチングにより確定する。産地や再エネ電源種別などで需要が異なり、それぞれの特性に応じて価格形成が進むことも考えられる。それは結果として、持続可能な再エネ導入を促進し、脱炭素社会の実現をサポートすることになるだろう。

 証書の潮流は、今後日本においても「環境価値」から「再エネ属性証明」に移行していくことが予想される。SCSKとしては、EneTrackによりI-RECの流通を促進することで、企業の脱炭素化を幅広く支援していきたい考えだ。


提供:SCSK株式会社
アイティメディア営業企画/制作:スマートジャパン 編集部/掲載内容有効期限:2023年1月30日

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る