海外の「水素戦略」の最新動向、投資規模やスピード感の違いが明らかに:法制度・規制(4/4 ページ)
政府が改定を検討している「水素基本戦略」。その内容を討議する「水素・燃料電池戦略協議会」において、諸外国の水素政策と民間投資の動向が報告され、その規模やスピード感の違いが明らかとなった。
中東・北アフリカ地域における水素関連産業の動向
中東・北アフリカ地域や後述するインドでは、安価な再エネ電力(太陽光・風力)が入手できること等から、グリーン水素をUS$2/kgH2前後で大量に製造するポテンシャルを有すると考えられている。
他方、中東では現時点、他地域と比べて人口や製造業の立地が少ないことから、域内での水素需要は小さく、グリーン水素の大半は中東域外に輸出されると想定される。また中東・北アフリカでは、現在も大量のグレー水素を生産していることから、これにCCSを組み合わせることで、ブルー水素の供給ポテンシャルも大きいことが特徴である。
現在のグレー/ブルー水素の生産量1,710万トン/年に、今後グリーン水素等を加え、2030年には全体で5,500万トンの水素を生産・輸出すると推計されている。グリーン水素ではUS$2/kg以下、グレー水素ではUS$1/kg前後の製造コストが見込まれている。
インドにおける水素関連産業の動向
世界最多の人口となったインドは、中国、米国に次ぐ世界第3位のエネルギー消費国である。先述の図6のようにインドは安価な再エネ資源に恵まれており、インド政府の調査機関NITI Aayogでは、2050年時点でのグリーン水素製造コストは、世界で最も競争力が高いUS$0.6/kgH2を実現すると推計している。
現在、インドの水素需要は年間600万トン(大半が石油精製と肥料用アンモニア製造)であるが、2050年には2,800万トンまで急増すると予想され、このうち8割〜9割をグリーン水素により賄うことを想定している。
このため、インド政府は「国家グリーン水素ミッション」を2023年1月に改定し、2030年までの目標として、以下の目標を掲げている。
- 年間500万トン以上のグリーン水素製造能力の開発
- 約125GWの再エネ設備容量の追加
- 総額8兆ルピー(約13兆円)以上の投資
- 60万以上の雇用の創出
また国内におけるグリーン水素産業のバリューチェーンの成長を促進するための包括的なインセンティブプログラムに対して、約1,974億ルピー(約3160億円)が初期予算として割り当てらてられている。
日本の「水素基本戦略」における新たな数値目標
資源エネルギー庁は、「水素基本戦略」改定の検討において、現状の水素等の導入目標2030年300万トン、2050年2,000万トンの中間目標として、新たに2040年1,200万トンを設定することとしている。これはあくまで中間目標なので突飛な数値とするはずもないが、日本のGDPシェアを踏まえた数値として設定されている。
また今回、新たな数値目標として、2030年までの国内外における日本関連企業(部素材メーカーを含む)の水電解装置の導入目標を設けることとした。これは、2030年に想定される世界の電解槽容量134GWのうち、1割強のシェアを獲得することを目指し、15GW程度を目標とする案が示されている。
しかしながら、諸外国における水素関連産業の野心的な数値目標やスピード感を踏まえ、あらためて目標全体を見直す必要がないか、検討が求められる。
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