大気中のCO2を直接吸収する「DAC」、日本での市場創出に向けた施策検討がスタート:エネルギー管理(4/4 ページ)
大きなCO2除去ポテンシャルを持つ技術の一つとして期待されている「DAC(大気中のCO2を直接回収する技術)」。経済産業省では新たなワーキンググループを設置し、DACなどの普及拡大や市場創出に向けた具体策の検討を開始した。
DACにおけるJ-クレジットの活用に向けた方針
DACによるCO2除去価値は、将来的には国家インベントリやNDC(国が決定する貢献)へ反映することが期待されるが、海外でのDAC産業の急速な発展を踏まえると、日本でも早急にルールを確立することが求められる。
このためDACワーキンググループでは、まずはJ-クレジットとして取引されることを目指して方法論を作成することとした。諸外国のボランタリーカーボンクレジット方法論を参考としながらも、国内の実情を踏まえた方法論とする。
方法論の検討においてはダブルカウントや計上漏れを避けるため、その境界(バウンダリー)を明確化することが重要となる。DACで回収されたCO2は地下貯留されることによりDACCSとして一体的な事業が行われると想定されるため、図4のようにDACCSは輸送/貯留設備までを算定範囲とする。他方、DACワーキンググループにおいてはその検討範囲を回収装置からコンディショニング(調整)/昇圧までとし、輸送/貯留設備の範囲についてはCCS方法論と整合性を取ることとする。
またDACは、CO2濃度が希薄な大気中からCO2を回収する点に最大の特徴がある。そのため発電所の煙突などの固定排出源から回収する事業と区別するため、回収源の定義が必要となる。ただし、大気中のCO2濃度や固定排出源の影響は地域差・季節差などがあるため、明確な線引きは難しい。よって、DACワーキンググループでは「回収源は固定の排出源の影響を受けない大気」と定義し、「地図情報、気体の濃度モニタリング、設備の稼働記録等の手段のうち、1つまたは複数を組み合わせて適格性を立証すること」を求めることとする。
ただし、一部のDACプロセスにおいては施設内で化石燃料を用いるため、もしDAC施設で大気中CO2以外の回収を禁じた場合、大気へのCO2放出という不合理な事態が生じ得る。よって、このようなDACプロセスの場合は、化石燃料由来のCO2回収を認めることとするが、除去量と排出削減量は明確に区別することを求める。
DAC施設内で化石燃料を使用する場合、その化石燃料の製造や輸送に伴う「上流」での排出量を考慮することも論点となり得る。現時点、J-クレジットでは既存の方法論においても、化石燃料の精製及び運搬に係る排出は算定対象外であるため、DAC方法論についても、上流の排出については考慮しないこととする。
また再エネ電力については、VCS方法論では、オンサイトの再エネ電源のみを認め、系統電力の再エネは認めないこととしているが、日本国内ではこのままの適用は困難である。
よって、DACワーキンググループでは、「1.DAC事業者自身が発電(オンサイト、自営線、自己託送)」「2.他の発電事業者から調達(非化石証書、再エネ由来J-クレジット、グリーン電力証書)」のいずれも認める案を示しているが、これは既存のJ-クレジット方法論とは異なる考え方である。
同様に、DAC設備の建設や廃棄に係るCO2排出量(エンボディドカーボン)については、Puro.earth方法論やClimeworks方法論では算定対象としているが、現時点国内では、算定根拠となる排出係数等のデータが不十分であるため正確な算定が困難であり、既存のJ-クレジット方法論においてもこれは算定対象外である。他方、CO2回収に用いる資材(吸収剤、吸着剤等)については、正確な算出が可能と考えられるため、これは算定の対象とする。
既存のJ-クレジット制度の枠内で新たな方法論を作成するという大前提があるため、諸外国の方法論と違いが生じることはやむを得ない面もあるが、DACプロジェクトの早期創出の後押しとなることが期待される。
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