排出量取引制度への参加を2026年度に義務化、その実現に向けた法的課題の論点:第1回「GX実現に向けた排出量取引制度の検討に資する法的課題研究会」(3/3 ページ)
企業などが排出する炭素量を取り引きできる「排出量取引制度(ETS)」。現在国内でも試行的に導入が始まっているが、正式な制度化に向け、法的な観点からの整理を行う検討会が設置された。
排出量取引制度に係る憲法上の論点
排出量取引制度は、事業者の排出量に応じて、排出枠の償却等といった負担を課すものであるため、憲法で保障された様々な権利の制約となり得るということも考えられる。
そこで研究会では主に、営業の自由(憲法22条1項)、平等原則(憲法14条1項)、財産権(憲法29条)と排出量取引制度との関係について、議論が行われた。
制度の合憲性を判断するにあたっては、規制の目的や、目的と規制手段の関連性が問われることとなる。GX推進法は、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行を推進する」ことを目的としていることから、この目的に沿った制度とする必要がある。
「営業の自由」との関係
ETSでは、自身のGHG排出量と等量の排出枠を償却する義務を対象事業者に課すことが原則となるため、対象事業者に排出枠を購入する等の経済的な負担を負わせることにより、以下の3点が考えられる。
- GHGの排出を伴う事業活動を制約する
- GHGの排出を伴う事業への参入を抑制させる
- GHGの排出を伴う事業規模の拡大を抑制させる
これらは、事業者の行動変容や産業構造の転換を通じた、GX推進法の目的である「脱炭素成長型経済構造」への移行の一形態であると考えられるが、「営業の自由」との関係について整理が必要となる。
なお、ETSが事業そのものを断念させるような規制にならぬよう、EU-ETSやK-ETSでは、新規事業者や既存事業者の設備の増設等に一定の配慮をする措置も設けられている。
「平等原則」との関係
ETSでは、その制度設計の一部として、事業者に対し様々な区別を行うことが不可避である。例えば、以下の3つなどが考えられる。
- 排出量の大小等に基づく、制度対象となるか否かの区別
- 制度対象事業者のうち、排出枠が有償割当か無償割当かの区別
- 制度対象事業者のうち、業種間の区別
なお、ここで事業者間の平等とは、ETS制度内の制度設計に閉じるものではなく、GX経済移行債による投資促進策や税制措置の有無など、事業者を取り巻く全体の環境を考慮する必要がある。
「財産権」との関係
ETSでは、先述のような柔軟性措置や市場安定化措置が導入され、これらが実際に発動された場合には、排出枠という財産権に影響を与え得る。
よって、ETSと財産権に関する論点は、
- 柔軟性措置等そのものが財産権の内容形成という観点でどのように評価されるか
- 柔軟性措置等の導入自体は合憲であっても、制度改正により、事後的に変更・撤廃することは財産権の保護との関係でどのような影響があるか。フェーズに分けて段階的にETSを発展させる場合、予見可能性という観点からどう評価されるか
などが考えられる。
以上のように研究会では今後、ETSに係る憲法上、行政法上、私法上の論点を整理し、本年9月以降に報告書を取りまとめる予定としている。
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