排出量取引制度、排出枠の追加割当における「勘案事項」を具体化:第3回「排出量取引制度小委員会」(2/3 ページ)
「排出量取引制度小委員会」の第3回会合で、国際競争によるカーボンリーケージの緩和や、研究開発投資に対する考慮など、排出枠の割り当てにおける勘案事項に関しての方針が示された。
カーボンリーケージリスク業種の判定基準
現時点、排出量取引制度等のカーボンプライシング(CP)は一部の国々でしか導入されておらず、その規制強度も様々であるため、CPの負担が過度に大きい場合、事業者は製造拠点の海外移転や製品輸入の増加といった「カーボンリーケージ」(炭素の漏洩)が生じるおそれがある。
このため、諸外国の排出量取引制度においても、リーケージリスクの高い特定の業種に対して排出枠を無償で割り当てるなどの緩和措置を設けている。
日本でも同様にリーケージリスクを緩和するための措置として、「カーボンリーケージ業種」に該当する事業者については、排出枠調達コストが一定水準を超える場合、排出枠の不足分のうち一定量の追加割当を行うこととした。
カーボンリーケージセクターの定義として、図3のように、EUでは貿易強度と炭素集約度の双方を考慮した指標により判定を行い、豪州では貿易シェアのみで判定を行っている。ただし豪州では、企業ごとの収益あたりの制度順守コストを指標として基準緩和の適用の該非を判断しているため、結果として、炭素集約度も考慮する仕組みとしている。
日本の制度では先述の表1のように、「収益に対する排出枠調達コストの比率が一定水準を超える」ことを追加割当の適用要件としており、豪州に類似した制度であるため、「貿易シェア」を判定基準とすることとした。なお、貿易シェアの閾値としては、豪州制度と同じく、「0.1」(10%)を採用する。
リーケージ緩和措置の適用要件
また、リーケージリスクの緩和措置の適用を判定する「収益に対する排出枠調達コストの比率」(排出枠調達コスト/収益)の閾値については、過度なCP負担を回避する観点から、事業者の支払能力を踏まえて検討する必要がある。
豪州制度では、計算式「排出枠調達コスト/収益」の分母の「収益」とは、製造業の場合は「EBIT(Earnings Before Interest and Taxes)」、業務部門の場合は「売上高」としているが、現時点、日本の制度では「営業利益」とすることを提案している。
事務局では、日本企業(製造業)の、短期の支払能力に直結する現預金等の当座資産の積み上げ額は、コロナ禍やリーマンショックの影響があった年度を除くと、直近20年間の平均で営業利益の8%程度であったことを示し、国内事業者の財務状況も踏まえて閾値の具体的な水準について検討する予定としている。
カーボンリーケージ対策は非常に重要であるが、無制限に行われるものではなく、制度対象者の脱炭素投資に向けたインセンティブの確保や、排出枠の需給バランスへの影響など、制度全体としての実効性を担保する観点から検討が必要である。
このため本勘案措置では、「排出枠調達コスト/収益」の閾値を超えて生じた排出枠の不足分の全量ではなく、係数(◯%)を乗じた量を追加的に割り当てることを想定している。
リーケージリスクの大きさは、結局、排出枠の価格水準やこれを左右するベンチマーク・グランドファザリングの割当水準次第であると言えるため、制度全体の強度を考慮しながら、追加割当量について検討を進める予定としている。
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