排出量取引制度、排出枠の追加割当における「勘案事項」を具体化:第3回「排出量取引制度小委員会」(3/3 ページ)
「排出量取引制度小委員会」の第3回会合で、国際競争によるカーボンリーケージの緩和や、研究開発投資に対する考慮など、排出枠の割り当てにおける勘案事項に関しての方針が示された。
研究開発費に応じた排出枠の追加割当
日本の排出量取引制度は、2050年カーボンニュートラルの実現と経済成長の両立(GX)を実現するため、「成長志向型カーボンプライシング」の施策の一つとして具体化されたものである。
経済成長のためには、中長期的に成果が表れる研究開発・技術開発を継続的に行うことが不可欠であり、本制度では、一定の基準を満たす事業者に対して、排出枠の不足の範囲で追加割当を行うこととしている。現時点、諸外国の制度では、このような勘案措置は行われておらず、日本独自の仕組みであると言える。
ただし、研究開発という概念は非常に幅広く、客観的・中立的に排出枠を追加割当するためには、第三者により検証可能な、透明性の高い基準を設ける必要がある。
このためには、第三者が外形的に確認可能な公表情報であることが大前提となるため、具体的には現時点、GX関連の特許技術とする案が示されている。現実には企業は、特許出願を行わない研究開発も多数行っているが、本勘案措置ではこれは評価されないこととなる。
特許であれば、特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」上で、各社の保有・出願状況を確認可能であり、特許庁が開発した「GX技術区分表」を用いて、GX関連技術を客観的に判定可能である。
本制度対象企業は、GX関連技術に係る特許に関連する研究開発プロジェクトを特定し、当該研究開発プロジェクトに係る費用を、本勘案措置における「研究開発費」とする。当該「研究開発費」は第三者の確認を受けた上で、特許情報と研究開発プロジェクトの紐づけを証明する資料と、当該第三者による確認書を国に提出することが求められる。
研究開発費に応じた排出枠追加割当の算定方法
本措置は、あくまで積極的なGX研究開発を行う事業者への配慮措置であるため、業種ごとの平均的な水準を超えて研究開発投資を行う事業者に限定して、排出枠の追加割当てを行うものとする。
研究開発費の水準は業種により異なるため、表2のような「売上高あたりGX関連研究開発費比率」の基準を定め、これに各社の売上高を乗じて算定することとする。
以上より、当該事業者が行った研究開発投資の額と当該業種の平均的な研究開発投資額の差分を排出枠価格で除した量(※図7の計算式参照)の排出枠が、事業者の申請に基づき追加割当てされる。
ただし本制度では、リーケージリスク勘案措置による追加割当と、この研究開発勘案措置による追加割当の同時適用が可能であるため、削減インセンティブを保つ観点から、不足する排出枠の量の「0.1倍」(10%)を割当量の上限とする案が示された。また、二重支援を避ける観点から、政府による研究開発支援を受けている場合、当該支援額は控除される。
排出量取引制度では、対象事業者に対して、直接・間接排出削減目標等を記載した「移行計画」の作成・提出を義務付けており、国はこれを公表することとしている。
研究開発勘案措置による排出枠追加割当を受ける事業者は、制度の透明性や事業者のコミットメントを高める観点から、GX関連研究開発の状況について「移行計画」に記載することが求められる。
排出量取引制度小委員会では次回以降、ベンチマーク・グランドファザリングの割当水準や排出枠上下限価格の具体的水準等について検討を行い、年末頃を目途に、2026年度制度開始に向けた取りまとめを行う予定としている。
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