ブロードバンド放送前夜:グローバル化する米CATV業界再編と取り残される日本米国発、ITトレンド(3/3 ページ)

» 2015年09月10日 10時00分 公開
PR
前のページへ 1|2|3       

今後、CATV中堅に広がるM&A旋風

FCCのTom Wheeler委員長。ブロードバンド寡占を懸念してコムキャストのTWC買収を阻止した。INTX2015で筆者撮影

 コムキャストとチャーターの2強体制へと向かう中、ケーブル業界では中堅事業者の動向に注目が集まっている。

 例えば、業界9位のブライトハウス社はコムキャストがTWCを買収することを懸念して、15年3月にチャーターの買収を受け入れた。結局、コムキャストによる同買収は失敗したが、今回TWCとともにチャーター陣営に合流した。

 一方、フランスの放送通信事業者アルティス社(Altice Group)は15年5月、業界5位のサッドゥンリンク社を91億ドル(約1兆1300億円)で買収して米ケーブル業界に参入し、関係者を驚かせた。

 また、アルティスを率いるパトリック・デラッヒ氏(Patrick Drahi、CEO)は5月21日、ニューヨークを訪問しTWCのロブ・マーカス氏(Rob Marcus、CEO)を訪問し、買収の打診を行なっている。

 当時、TWCはチャーターと買収交渉の終盤を迎えており、業界関係者は「コムキャストに代わってアルティスが割り込むか」と身構えた。その約1週間後、チャーターはTWC買収を発表したが、そこには20億ドルの違約金が取り決められていた。つまり、アルティスがチャーターからTWCを奪い取るためには、さらに110億ドル以上(1兆3000億円)の資金が必要となった。

 結局、アルティス側は資金調達に苦しみ、同月27日TWC買収を断念した。しかし、デラッヒCEOは「今後、中堅中小事業者の買収を狙う」と述べている。近い将来、チャーターとアルティスの両社が米国で買収戦を展開する可能性もある。

 業界では、ニューヨークで営業するケーブルビジョン社が次の買収ターゲットになるとの観測もでている。そうなれば、米CATV業界が、欧州勢によるグローバル化の潮流に直面することになる。

米CATVに打ち寄せるグローバル経営の波 

 ここでグローバル経営という視点から、チャーターの親会社リバティー・グローバルとジョン・マローン氏の話をしてみたい。

 2013年5月、リバティー・グループの米国事業を担当するリバティー・メディア社はチャーター・コミュニケーションズ(当時業界4位)を買収した。これを受け、米メディアは「ケーブル買収王、ジョン・マローン氏が14年ぶりにアメリカに帰ってきた」と騒ぎ立てた。

 マローン氏はCATV事業者TCI(Tele-Communications Inc.)のトップとして 90年代中小事業者を買収し、業界2位まで同社を成長させた。当時、通信最大手のAT&Tがケーブル業界に参入、マローン氏は99年にTCIを4兆3500億円(当時の換算額)でAT&Tに売却し、欧州に進出した。

 その後、同氏は米国で培った買収手法を駆使し、欧州でリバティー・グローバルを急成長させている。今世紀に入り、同社は東欧、ドイツ、北欧、スイス、オーストラリア、アイルランドなどで5兆円以上を投資してきた。13年2月には英国大手CATV事業者バージン・メディアを約2兆3300億円で買収し、欧州最大のCATV事業者になっている。

 また、リバティー・グループはここ数年、欧州でボーダフォンとの買収戦争を繰り返している。例えば、ボーダフォンは13年10月に、ドイツの大手ケーブル事業者カベル・ドイチェランド社を巡ってリバティー・グローバルと買収戦を演じた。このときは、ボーダフォンが4割を超えるプレミアムを付け、約1兆円で買収した。

 14年1月には、リバティー・グローバルが傘下のUPCネーデルランド社を使ってオランダの大手ケーブル事業者ジッゴを6700億円で買収した。ここでもボーダフォンとの一騎打ちとなりリバティーが競り勝って、オランダ市場を制した。

 また14年3月には、スペイン最大手ケーブル事業者のオノを巡っても両社が対決し、72億ユーロ(約1兆円)でボーダフォンが買収に成功し、リバティーは南欧制覇に失敗している。

 このようにリバティー・グループはグローバル・プレーヤーとして欧州に続いて米国市場を押さえようとしている。今回のTWC買収により、その野望は大きく前進した。また、リバティーを応用にして仏アルティスが米国で買収を展開したことを考えると、ボーダフォンの米ケーブル市場進出もあり得ない話ではない。そうなれば米国のCATV業界は欧州勢による草刈り場となる。

 コムキャストは米国最大とはいえ、リバティー・グループに比べれば北米のリージョナル・プレーヤー(地域事業者)に過ぎない。今後、グローバル・プレーヤーの戦略によって米国市場が左右されることになるだろう。

◇ ◇ ◇

 米国のリバティー・メディアも2006年から年平均36%のペースで事業拡大を続けており、機関投資家から高い信頼を得ている。リバティー・グループは欧米を押さえる巨大放送通信グループに成長するかもしれない。

 一方、2010年にジュピターテレコムの全株式を売却し、ジョン・マローン氏が撤退した日本市場は、欧米を中心としたトリプル・プレーという国際舞台から取り残されている。これは放送業界が官民が一致して鎖国政策を取ってきたためだろう。

 おかげで、日本の放送事業者は激しい国際競争にさらされず生き残ることができた。だが、ブロードバンド放送が欧米で主体となってゆけば、日本に対する参入障壁は格段に下がってゆく。もちろん、鎖国政策を続けることは可能だが、日本国民が質の悪いサービスを高く買わされ続けることになる。

 世界を舞台に活躍するマローン氏が日本をどのように見ているかは分からない。しかし、世界経済の中でアジア地域が急速に成長していることは間違いなく、日本は中国と並び優良な市場であることも間違いない。

アンケート募集中 アンケートに回答いただいた方の中から抽選で3名様にアマゾンギフト券5000円分をプレゼントいたします。
前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:日本電気株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2015年9月30日

関連アンケート

アンケートに回答いただいた方の中から抽選で3名様にアマゾンギフト券5000円分をプレゼントいたします。