エンタープライズ:ニュース 2002/09/17 19:13:00 更新


デスクトップLinuxや“第2のLiberty”で、サンは再び輝くか

2000年をピークにサンの売上高と株価は下降線をたどっているが、同社はサンフランシスコで今週開催のSunNetworkカンファレンスで反撃策を示す

 ライバルやエコノミストから脇へ追いやられ、コンピュータ業界内でのリーダーシップにも陰りが見えてきた米サン・マイクロシステムズが、状況を打破して輝きを取り戻すための、新たなプロジェクトを立ち上げようとしている。

 同社はネットワーク接続されたヘビーデューティなコンピュータサーバの販売により、1990年代後半、業界大手各社に揺さぶりをかけた。同社のマシンによって米IBMや米ヒューレット・パッカード(HP)は足元をすくわれ、また同社は米マイクロソフトによるOS独占状態を揺るがそうとクロスプラットフォームプログラミング言語のJavaを生み出している。だが2000年をピークに同社の売上高と株価は下降線をたどっており、ライバル各社が鮫のように同社を取り囲んでいる。

 そんな中、サンは反撃に出ようとしている。この取り組みは、同社が最終的に――米SGIと同じような運命をたどって――ハイエンドコンピューティングというニッチ市場に追いやられるか、それとも利益を生む新しいアイデアで業界をリードし続けるのかを決定付けることになるだろう。

 サンの反撃策は、今週、米サンフランシスコで開催の「SunNetwork」カンファレンスで姿を現すことになる。同社は9月18日、マイクロソフトが優勢を誇るデスクトップコンピュータ市場に、Linuxを使って攻め入る戦略の詳細を披露する(8月17日の記事参照)。また19日には、サーバとストレージシステムを1つのコンピューティングパワー貯蔵庫に集約する、「N1」と呼ばれる計画について語る見通し(4月25日の記事参照)。

 一部には、サンは必ずや勢力を盛り返すだろうとの見方がある。

 米がートナーのアナリスト、ポール・マクガケン氏は、「振り子が悲観的な方向に振れすぎた観がある」という。同氏は、サンは難局から立ち直って反撃に出ていると見ている。その証拠の1つとして、サンが2年間トラブルを抱えつつも、UNIXサーバ分野でHPやIBMの追撃をかわし、王座を守り抜いている事実を挙げる。実際、サンはこの分野でシェアを奪還しつつある(5月15日の記事参照)。

新たなプロジェクト

 サンは、Javaの時と同様、マイクロソフトの独占を突き崩すことが目的の新たな試みに取り組んでいる。同社は、Webサーファーやサイト運営企業が、マイクロソフトの認証システム「Passport」を使わなくても、一度データを入力すれば各種サイトでその登録情報が維持される環境を得られるようにと、「Liberty Alliance Project」を立ち上げた。

 サンはこのプロジェクトで、ユナイテッド航空、ゼネラルモーターズ、フィデリティ・インベストメンツ、VISA、バンク・オブ・アメリカ、ノキア、シスコシステムズ、ボーダフォンなど、多数の有名企業から、すばやく支持を集めていった。サンは最近、なぜLibertyにパートナーが群がるのか、その理由を、そもそもこのプロジェクトの立ち上げはパートナー企業からの要請によるものだったと説明している。

 サンのCEO(最高経営責任者)、スコット・マクニーリー氏は最近のインタビューで、「VISAがわれわれに(プロジェクトの立ち上げを)要請したのだ」と語っている。

 詳細は明かされていないが、サンはLibertyの後継プロジェクトも準備中だとしている。新しい“アンチマイクロソフト同盟”は、音楽/動画データファイルのコピーと利用を管理する「デジタル著作権管理」の分野で立ち上げられることになりそうだ。マイクロソフトはWindowsに、独自のデジタル著作権管理機能を組み込んでいる。

 「われわれはLibertyで、かなりの成功を収めている。そして特定のプラットフォームやコンテンツやベンダーに依存しない、Libertyライクな標準の確立で、メディア業界ともコンタクトを取っている」。サンのソフトウェア担当上級副社長、ジョナサン・シュワルツ氏はCNET News.comに対してそう語っている。

 サンは、Linuxデスクトップ戦略については、より多くを語る準備があるようだ。この取り組みは、少なくとも当初は、数百万という平均的なコンピュータユーザーは対象にせず、社員が使うソフトを管理する必要のある企業――例えば数百人の電話オペレーターを抱えるコールセンターなど――を対象にしたものになるとシュワルツ氏は語っている。サン自身も、社員にLinuxデスクトップを利用させることになる。

 しかしサンには、デスクトップ市場への参入を試み、ほとんど成功を収められなかった過去がある。同社は以前にも、大半の処理タスクを中央サーバに任せる「Sun Ray」などのシンクライアント製品を出しているが、顧客にその採用を納得させることができなかった。

 一方、サーバとストレージデバイスをつなぐN1計画は、サンがこれまでノウハウを培ってきた分野に近く、対象となる顧客も同社得意の、高価で障害に強いシステムを求める人々だ。N1に似たプロジェクトとして、HPには「Ulitity Data Center」が、またIBMには「eLiza」という自動コンピューティングプロジェクトがあるが、サンは他のコンピューティング企業との関係を差別化要因として、このプロジェクトを成功に導きたい考え。

 計画に詳しい筋によると、サンはN1を具体化するにあたり、ネットワーキング大手のシスコのほか、オラクル、i2、BMC、ピープルソフト、SAPといったソフト企業各社、キャップ・ジェミニ・アーンスト&ヤングなどの、顧客企業のシステム構築にあたる「システムインテグレーター」と提携交渉を進めているという。サンは、他社との提携についてはコメントを避けている。

高まるプレッシャー

 サンに対する悲観論は根拠のないものではない。サンの今日の事業上の最大の問題点は、利益率の低下にある。直近の四半期決算で、同社は34億ドルの売上高を報告、一時的に黒字に戻したが(7月19日の記事参照)、アナリストが伸びるものと期待していた利益率は下落している。

 ライバルのIBMが多数のエンジニアを抱え、インテル/マイクロソフト陣営からの攻勢も強まる中、利益が出せなければ、サンは自社製品の競争力を維持していくための研究開発に予算を投じることができない。

 投資家の懸念は強く、サンの9月13日の終値は、1996年以来の底値の3ドル11セントにまで下がった。

 社内にも課題を抱えている。サンではCOO(最高執行責任者)のエド・ザンダー氏や長年の幹部が同社を去った後の経営陣の再編成にあたっている。また同社は2001年に始まったレイオフで3900人を削減、今年末までにさらに1000人の削減を予定している。

 だがサンにとっての主たる脅威はやはり、ソフトの巨人マイクロソフトやハードの巨星IBM、そしてデルコンピュータやHPといった他社との競争だ。

 インテルサーバと、その上で通常稼働するWindowsおよびLinuxの両OSは、サンの牙城を着実に浸食し続けている。

 糖尿病/呼吸器官系の医療品を手がけるリバティ・メディカルの子会社、ポリメディカは、導入したWindowsシステムに満足感を示している。同社CIO(情報担当役員)のジョージ・ナール氏によると、同社は受注処理と、一定期間の受注処理量の捕捉などに16プロセッサのユニシス製Windowsサーバを使用している。

 「今から5年前、数十億ドル規模の会社のシステムを管理しているのだったら、サンを選んだいただろう。だが今日の世界では、マイクロソフトが有力な対抗製品を出している」とナール氏。

 SAPのビジネス/会計ソフトの採用は特に、ハイエンド市場へ攻め入る上でのマイクロソフトの強みとなっている。マイクロソフトのWindowsサーバ部門担当コーポレート副社長、ビル・ベイト氏によると、SAPサーバを運用するベリゾンのコールセンターは、Windowsソフトの利用者という意味で上位の5%に入っているという。

 インテルのItaniumプロセッサが登場したことで、Windowsの可能性はさらに広がっている。Itaniumは、Pentium/Xeon用に書かれたソフトの修正作業のため数年の遅れが出ており、売れ行きもよくない。だがこの新チップは今日のハイエンドサーバの多くとの比較で、事実上10億倍以上のメモリを利用でき、いずれ有力な競争相手となり得る。またIntelは、メインストリーム向けプロセッサのために開発した製造技術を用いて、Itaniumの製造コストを引き下げることができる。

 Itaniumは、第1世代は惨憺たる結果だったが、第2世代のItanium 2では、約束の一部が果たされようとしている。また先週は、32個のItanium 2プロセッサとWindows .NET Server 2003、SQL Serverデータベースを搭載したNECのサーバが、ハイエンドサーバのスピードテストで今日までの最高位にあたる第5位にランクインしたという、サンにとって警戒すべきニュースが伝えられている(9月11日の記事参照)。

まだ遅れているWindows

 しかし顧客を納得させるには、生のパフォーマンス以上のものが必要だ。マイクロソフトは異なるドメインにジョブを振り分けるWindowsの機能を改善させると共に、ハード欠陥によるクラッシュに対処すべく努める必要がある。

 ファースト・アルバニーのセキュリティアナリスト、ウォルター・ウィニツキー氏は、「マイクロソフトはこの点に対処し始めたばかりだ。これはメインフレームでは数十年前から実現されていることであり、UNIXでも安定して得られるようになってきている機能だ。しかしWindows/インテルベースのシステムでは、ようやく登場し始めた段階にすぎない」と指摘する。

 最近サンのUNIXサーバからIBMのUNIXサーバに切り替えたコルゲート・パルモリブで900人のITスタッフを率いているCIOのエド・トバン氏も、Windowsはまだハイエンドタスクを処理する準備ができていないと見ている。

 「われわれは(これらのシステムで)自社のビジネスを動かしている。現状はすべてUNIXであり、順調に稼働している。従来のデータセンターとは別のインターネットサーバについての話なら、多少は(ほかのシステムも)考えられるが」とトバン氏。

 サン顧客の忠誠心も見逃せない。保険会社などに地理解析サービスを販売している従業員80人の会社、クエステラルは、サンのサーバとストレージを採用している。「当社の開発者の多くはサン製品についての知識が豊富だ」と同社副社長のパトリック・カークス氏。

 多数のメーカーのサーバを使い、サンディア国立研究所などのサーバのホスティングにあたっているデザート・スカイ・ソフトウェアは、初期のプロジェクトで苦い経験を味わって以来、Windowsの利用を拒絶している。

 「(初期のプロジェクトで)遭遇した問題に変化が見られない限り、(マイクロソフト製品の導入は)検討しない」とデザート・スカイのルーク・ホルトン社長。

 だがIBMはマイクロソフトと違って、この分野で膨大な顧客を抱え、経験も豊富だ。同社はPower4プロセッサ搭載のUNIXサーバで、数年間にわたって失ったシェアの大半を取り返そうとしている。

 業界ニュースレターMicroprocessor Reportのシニアエディター、ケビン・クレウェル氏は、「IBMのPower4は、少なくとも1年遅れた(サンの)UltraSPARC IIIと異なり、目標を達成している」と語る。

 イルミネイタのアナリスト、ジョナサン・ユーニカ氏も、「IBMは非常に強力になっている」とする。サンはIBM Global Services部門(IGS)のことを金を巻き上げる軍団だと揶揄しているが、「IGSは巨大で成功している。それは、多くの顧客が、情報技術の各構成要素に責任を持ってくれるだれかを求めているためだ」とユーニカ氏。

 だがそのIBMも、サンから勢力を奪うには至っていない。

奪ったり奪われたり

 サンは2001年、IBMに奪われた売り上げの奪還を開始している。

 インターネットブームの数年間、サンの市場シェアは、長年サーバ売り上げで優勢を誇ってきたIBMのそれに、かつてないほど近づいた。調査会社IDCの調べでは2002年1−3月期には、インターネット熱は消滅が始まったが、サンの市場シェアは18%、IBMのそれは21%となっている。

 過去10年間のうち初期の段階でサンが保有していたシェアを考えると、この接近は特筆に値する。

 がートナーのアナリスト、マクガケン氏は、1990年代半ば、サンのサーバは「あまり良く設計されていなかった。そしてサーバ分野では、Windowsの方が競争力を高めていた」と振り返る。サンは、64ビットプロセッササーバでクレイとの契約という突破口を見いだし、これにより同社は周辺領域から、企業のコンピューティングオペレーションの中核を担うデータセンターへと跳躍した。

 だがIBMからの攻勢と、サン中古機器の販売、およびUltraSPARC IIIベースの新サーバへの移行の遅れから、サンは手痛い打撃を受け、2001年下半期にはシェアは12%を切り、IBMが34%を上回った。

 ところが2002年に入り、サンは失地回復に出て、4−6月期は17億ドルを売り上げてシェアを17%に戻し、29億ドルのIBM、同額首位のHP-コンパックに次ぐ、第3位となっている。

 しかしサンはこの回復基調を守るためには、今後も製品の競争力を保たなければならない。

 「サンにとって大きなプレッシャーは、対策を取らないと2−3年後にさらに問題が深刻化するという点だ」とギガ・インフォメーション・グループのアナリスト、リチャード・フィシェラ氏は今月発行したレポートに記している。またいずれ、Linuxとインテルベースのサーバが、サンの利益率を脅かす可能性がある。

 フィシェラ氏は、サンは今後、ハードは他社に任せ、ソフト企業として生き残っていく必要があるだろうと指摘する。「そう遠くない将来のある時点で、SPARCプロセッサ技術の進化が継続されているかどうかとは無関係に、サンは自社の知的財産をインテルベースのシステムに移し替えることを検討せざるを得なくなるだろう」と同氏。

 だが今のところサンは、サーバ市場全体の中でも最も大きなセグメントであるUNIXサーバ分野で、IBMから積極的な値引き攻勢と強力な技術で圧力をかけられながらも、依然として首位を走っている。

 サンのセールス担当上級副社長に就任したロバート・ヤングジョン氏は、「IBMはあらゆる手段でわれわれを攻めようとしている。だがわれわれの地位は変わっていない」と語っている。

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[Stephen Shankland,ITmedia]