エンタープライズ:コラム 2003/04/28 12:54:00 更新


Gartner Column:第90回 CRMはもう古い? ビジネス上の価値を見直してみよう

「CRMはもう古い」という言葉がCRMに早くから特化してきたベンダーから聞こえてくる。しかし、CRMとは、顧客そのものの管理という意味ではなく、顧客との関係を中心に考えた、ステークホルダーとの関係性管理、と考えるのが妥当であろう。そういう意味でCRMの価値というものは今後も変わるものではない。

「CRMはもう古い」という言葉がCRMに早くから特化してきたベンダーから聞こえてくる。例えば、CRMはビジネス取引の末端にある顧客との関係を管理するだけで、途中にあるパートナーや従業員との関係までを管理するような意味は含んでいない、それではビジネス価値が低くなる、というものである。また、顧客を管理するなんて言い方自体がおかしい、という声も聞こえる。

 しかし今一度、ビジネスを継続、拡大するために、最も重要な対象はだれかを考えてみよう。ステークホルダーという言葉がある。これはビジネスを展開する上で関係してくる対象者すべての総称である。ステークホルダーには、顧客はもちろんのこと、その企業に株という形で資金を提供している株主、販売・開発の提携先であるビジネスパートナー、そしてそのビジネスを実際に遂行する役割を持つ従業員が含まれる。

 このうちのどれ1つが欠けてもビジネスは成立しない。そういう意味ではベンダーにとって、CRMというより、ステークホルダー関係性管理(Stakeholder Relationship Management)のソリューションを提供していると言った方が、ビジネスには広がりを持てるだろう。

 しかし、ビジネスは購買者(= 顧客)なしには成立しない。株主も企業のビジネスパフォーマンスを監視するだけでなく、その企業が顧客とどのように付き合っているかも監視している。ビジネスパートナーも、販売パートナーならもちろんのこと、開発パートナーもその企業の顧客を見ながら活動している(というより活動すべきである)。従業員も然りである。

 したがって、CRMとは、顧客そのものの管理という意味ではなく、顧客との関係を中心に考えた、ステークホルダーとの関係性管理、と考えるのが妥当であろう。そういう意味でCRMの価値というものは今後も変わるものではない。

 さて、「Gartner Column:第69回 日本でのCRM普及を目指して」でも述べたように、CRM導入の目的はROI(Return on Investment of IT)の向上だ。ROIとは、単位当たりのIT投資が生み出した企業利益の割合である(最終利益額 ÷ IT投資額)。

 当たり前だが、利益というのは、売り上げからコストを差し引いて残った金額のことである。その額が大きければ大きいほど、ステークホルダーにはその恩恵が還元され、新たな投資あるいは高いインセンティブを可能にすることでビジネス活動を効果的にし、より企業を発展させる。言い換えれば、最小のコストで最大の売り上げを得ることが営利企業の使命なのだ。

 その売り上げから差し引かれるコストは大きく次の4つに分類される。

  1. 商品(製品やサービス)を生産したり、顧客の元に届けるために直接必要な費用である原価
  2. 営業活動やマーケティング活動に必要な販売経費
  3. 従業員の職場環境の改善をサポートする人事や経理活動に必要な一般管理費
  4. ビジネスを拡大するのに必要な設備やシステム導入、あるいは研究開発に必要な投資費用

 下の図は、ROI向上の基本的な流れを、売り上げとコストの関係から表したものだ。

crm.jpg

 CRM導入によるROIの向上というのは、次の3つがそろって初めて大きな効果が実現できる。

  1. 売り上げの増加
  2. 営業活動やマーケティング活動の効率化によるコスト削減
  3. ROIの母数となるCRM導入時に必要な投資コスト(システムの総合保有コストと、戦略変更に伴う組織やプロセス変更に必要なコスト)の最小化

 売り上げの増加に対しては、過去と現在の大量データとBIツールを使って分析することで、他社に先駆けて市場ニーズをつかみ、新しい商品を市場に投入することで可能になる。自社にとっての本当の優良顧客を見つけ出し、その優良顧客のニーズを素早く把握できれば満足度を向上させることができ、顧客の囲い込みにも結び付けられる。顧客満足度向上は、顧客シェアの拡大、さらに企業や商品ブランド価値の向上にも結びつく。

 販売経費の削減に対しては、CRMシステム(Webやコールセンターなど)によってプロモーション活動や顧客サポート活動を効率化することで可能になる。また、SFAなど営業サポートシステムにより、事務処理にかける時間を顧客訪問に回すことができれば営業マンの生産性も高まるはずだ。

 そして、CRM導入時あるいは導入してからの投資コストであるが、戦略変更に伴う組織変更やビジネスプロセス変更に必要なコスト、システム導入の初期費用や維持コストなどの最小化を可能にすれば、ROI向上に大きな影響を及ぼす。ここはベンダーのコンサルティング能力の見せどころだ。

 このようにしてCRMは目に見える財務上の効果を導き出し、さらには顧客を中心にしたステークホルダー全体の管理によって、すべてのステークホルダーにも恩恵をもたらすのだ。CRM導入によるビジネス上の価値は計り知れない。

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[片山博之,ガートナージャパン]