インタビュー
2003/05/08 22:01 更新


Interview:Opteronシステムへのコミットで日本のHPC市場を狙うオングストロム

x86プラットフォームベースのHPC製品の草分けであるオングストロム マイクロシステムズは、いち早くOpteron採用を発表した。同社ワールドワイドセールス ディレクターのケネス・バーゲンサル氏に日本市場での戦略を聞いた。

 先日、AMDからx86命令をサポートした初の64ビットサーバ/ワークステーション向けプロセッサAMD Opteronが正式に発表された。Opteronは従来の32ビットx86命令を高速に実行可能でありながら、同時に64ビットの命令セットも処理可能なプロセッサである。既存のx86資産を生かしながら、64ビット化による恩恵も同時に受けることが可能なOpteronは、64ビットアドレッシングが必須機能ともなってきているエンタープライズレベルのバックエンドサーバだけでなく、HPC(High Performance Computing)の分野でも注目されている。

 とりわけ、x86プラットフォームベースのHPC製品の草分けでもあるオングストロム マイクロシステムズがOpteron製品にコミットしたことは、今後のプロセッサトレンドを占う上でも重要なポイントだ。同社はOpteron採用の3Dグラフィッククリエイター向けワークステーション「Titan64 Creater」、デュアル構成のOpteronサーバブレードをラック当たり130ブレードまで実装可能な高性能サーバ「Titan64 SuperBlade」、デュアルOpteronの1Uラックサーバ「Titan64 Enterprise」を発表している。

 Opteronシステムへのコミット、日本での戦略などについて、オングストロムワールドワイドセールス ディレクターのケネス・バーゲンサル氏に話をうかがった。

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「日本はゲーム開発やCGなどHPCのニーズが高い業界で有望な市場」と話すバーゲンサル氏


ZDNet オングストロムはHPCの分野でよく知られたブランドですが、HPCの世界はまだ限られたユーザーにしか知られていません。まずはオングストロムの大手顧客にについて教えて頂けますか?

バーゲンサル われわれはハリウッドの映画スタジオ向けに高性能コンピュータを提供する会社としてスタートしました。「Men In Black」シリーズを手がけたRhythm & Heusや、「Toy Story」のPixerといったトップクラスの顧客がわれわれのシステムを利用しています。1社当たり200〜300台のグラフィックワークステーションが使われています。一方、Conocoには700クラスタ以上の巨大なサーバシステムを納入しました。そのほかにも、証券業界やバイオテクノロジーの分野にも大手顧客が存在します。強力なネットワークサービスインフラを提供することで知られているAkamaiも、われわれの製品を数千台単位で導入しています。

ZDNet オングストロムはOpteronに強くコミットし、Opteron発表とともに3つの製品をアナウンスしました。AMDからも重要なパートナー企業として迎えられています。なぜオングストロムは、Opteronを選択したのでしょう?

バーゲンサル 社長を含め、われわれの会社にはMIT出身者が多いのですが、彼らトップクラスのエンジニアが、将来必要となるプロセッシングパワーを達成するために、Opteronが最も良い選択肢であると考えたからです。実際にアプリケーションを走らせた場合のパフォーマンスが、最も理想的に出るプラットフォームがOpteronでした。われわれはパフォーマンスにフォーカスした製品のベンダーですから、Opteronは絶好のビジネス素材でもあります。AMDにもそうした点を認めていただいて、戦略的なパートナーとして良好な関係を持つことができたのです。

ZDNet 単に性能を出すだけであれば、IA-64にのみコミットする選択肢もあったのではないでしょうか?

バーゲンサル これまでの64ビットソリューションには、さまざまなボトルネックや問題点があります。中でもとりわけ問題となるのが、導入価格と性能のバランスです。Opteronは性能が高いだけではなく、32ビットとの完全な互換性があります。ユーザーは必要に応じて自分のペースで64ビットアプリケーションへの移行を行えます。また、システムベンダーにとっても、エンドユーザーにとっても、アーキテクチャの選択肢が広がった方が低価格化が進みやすい。そうしたことが期待できるのは、複数の選択肢があるからこそです。われわれは32ビットシステムではIntelとAMDのソリューションを、64ビットではAMDのソリューションを推し進めます。現時点でIA-64にコミットするためには、アプリケーションをすべて64ビットに移行させなければなりません。

ZDNet つまりシングルプロセッサのパフォーマンスも重要だが、システム全体の価格やパフォーマンスのバランスが重要ということでしょうか?

バーゲンサル AMDの64ビットソリューションはサーバだけでなく、デスクトップPCでも展開されます。システムのコストを低く抑えることができれば、HPCの市場は大きく変化するでしょう。スーパーコンピュータ市場は、これまでも堅実に成長してきましたが、より多くのユーザーが利用できるぐらいにまでコストが下がることで、市場規模が大きく成長すると確信しています。数億円が予算として必要だったアプリケーションに対して、数千万円、数百万円でソリューションを提供できるようになります。さまざまな分野でのの研究開発用シミュレーションの品質が高くなり、また予算の少ない一般の大学でも、それまでは不可能だった研究を遂行できるようになる。Opteronにはそのパワーがあります。

ZDNet Opteronの特徴として32ビットアプリケーションのパフォーマンスと互換性を挙げていますが、何よりもパフォーマンスが優先されるHPCの分野において、32ビットと64ビットの混在環境はどこまで重要とお考えですか?

バーゲンサル 顧客のニーズとして、32ビットのソフトウェアを64ビットと同時に使いたいという要求は現実に存在しているのです。現状、64ビットが必須かつ効果的なソフトウェアは限られています。半年後には、半分ぐらいのアプリケーションが64ビットに移行できるでしょうが、顧客には年間の決まった予算があり、HPCに対する投資サイクルも計画が最初にあります。次にどれぐらい64に移行できるかは予算次第ですし、購入サイクルとの兼ね合いも考えれば急激にすべての顧客が64ビットへ移行と考えることは現実的ではありません。

ZDNet オングストロムでは1Uラック、あるいはブレードサーバのシステムをOpteronベースで開発ましたが、容積当たりのパフォーマンスが求められるこれらのカテゴリにおいて、Opteronシステムは他の選択肢と比較してどの程度のアドバンテージがあるのでしょう?

バーゲンサル 世界中の顧客が、現在Opteronベースで開発した我々のシステムを評価しているところです。その具体的な結果は現時点で披露できませんが、他のx86系ソリューションと比べ、現時点でも十分に高い性能が出ているとのフィードバックは受けています。容積当たりのパフォーマンスに関しても、全く問題はありません。2プロセッサのサーバブレードをOpteronで作れますし、Athlonよりも実装密度を上げることが可能です。

ZDNet 日本のHPC市場をどのように見てますか? 日本市場に対して、どのような提案をしたいとお考えでしょう。

バーゲンサル 日本のHPC市場は、現時点でもかなり大きな市場であると捉えていますが、まだまだ伸びる余裕があると思います。大きな大学や研究機関などには、64クラスタ以上の大規模なHPCシステムも存在しますが、商用ではまだあまり使われていません。商用向けのHPCソリューションは今後大きな可能性がありますし、日本において間違いなく伸びるでしょう。

ZDNet オングストロムは日本でどのようなビジネスを育てようとしているのでしょう。ターゲットとなる業種はどのような分野でしょうか?

バーゲンサル まずは、われわれの製品を知ってもらいたい。われわれはクラスタやHPCを普及させるため、低価格な製品を提供し、使いやすいマネジメントソフトウェアなどのシステムソリューションも提供できます。われわれのソリューションをエンドユーザーに届けるため、現在はチャネルやSIパートナーとの協業を勧めています。

 また日本における有望な市場として、ゲーム開発やコンピュータグラフィック業界を挙げることができます。この分野では、まだまだ多くのプロセッシングパワーが必要とされているからです。ハリウッドのスタジオは、近いうちに間違いなく64ビットに移行します。Opteron以前から、CG業界ではSoftimageやMayaといったメインストリームのアプリケーションがAthlon上で高いパフォーマンスを示すことがわかっています。今後、それらが64ビット化されれば、さらにそのパフォーマンスがアップするのです。パフォーマンスアップは、コンピュータグラフィックスの品質向上に直結しますから、Opteronを採用したワークステーションの浸透は、非常に速いはずです。

ZDNet HPCの分野には、名だたる大手コンピュータベンダーも多いわけですが、オングストロムのライバルに対するアドバンテージとは何でしょうか?

バーゲンサル われわれはHPCと高性能サーバに特化した小規模のベンチャー企業ですが、大きい会社と比べてプライスパフォーマンス、冷却技術、管理ツールなどにアドバンテージがあると考えています。また人数が少ないため、全員がHPCに関して深く理解した専門性を持つことができ、会社全体の技術能力を高めています。さらにHPCにフォーカスしているため、その分野でのノウハウという点で、さまざまな事業を手がけているベンダーよりも優れています。特にコンピュータグラフィック向けのシステムについて、もっとも多くのノウハウを持っているのはわれわれだと確信しています。



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[聞き手:本田雅一,ITmedia]

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