エンタープライズ:ニュース 2003/05/27 23:03:00 更新


基調講演:オンデマンドビジネスへ 「E.A.」と「21世紀のソフトウェア開発」

5月27日、「IBM Software World 2003」が開幕。開幕基調講演では、BTMの田中将介CIOが戦略的ITマネジメントについて、ラショナルソフトウェアのメソロジスト、ジェームズ・ランボー氏が21世紀のソフトウェア開発と題して講演を行った。

 IBMソフトウェア5ブランドが一堂に会して行われている「IBM Software World 2003」。開幕を飾る基調講演は、オンデマンドオペレーティング環境を実現するためのハイレベルの視点「ITガバナンス」という側面から行われた。ホスト役の堀田一芙ソフトウェア事業部長に導かれ、東京三菱銀行(BTM)の田中将介CIOがエンタープライズアーキテクチャなど戦略的ITマネジメントの視点から、ラショナルソフトウェアのメソロジスト、ジェームズ・ランボー氏がオープンな開発環境という点から講演を行った。

 積極的IT投資を含む事業戦略をとるBTMの田中將介CIOは、同社で実際に行われている戦略的ITマネジメントを紹介。エンタープライズアーキテクチャ(E.A.)を採用した同社のITマネジメントを基に、あるべき姿を語った。

「工場長の視点を確立した上で、経営者の視点を乗せる必要がある」。講演の中で田中氏は、戦略的ITマネジメントをこのように例えた。

 「工場長の視点」とは、システム部門がユーザー部門からの開発需要を受注生産主体で行う伝統的ITマネジメントであり、「経営者の視点」とは、全社的なROIの極大化と、長期的経営理念との整合性を図るものだという。

田中氏

東京三菱銀行のCIO田中將介氏


 東京三菱銀行は、マルチチャネルで一人ひとりの銀行を目指す「Bank For You」、リテール部門、ホールセール部門などが独立して存在する「ハイブリッドバンク」の実現などを中心とした事業戦略(Mission21)を定め、新しい銀行の形を実現しようとしている。CIOを務める田中氏は、「この2つを実現するものとして最も重要なのが『ITリーダーシップ』だ」と述べ、システム部門へ高い比重を置いていると話す。不況の長期化、金融ビッグバンなど変化が激しい金融業界だが、「外的要因の変化にスピーディーに対応する手段を提供するのがシステム部門」だという。

 これに対し、BTMは2つの施策を実施していることを紹介した。短期経営目標に即した「全社的案件選別プロセス」と、長期経営目標に即した「エンタープライズアーキテクチャ」(E.A.)の採用だ。短期経営と長期経営、この2つに最適化するデュアルオプティマイズを確立する必要性を強調した。

 BTMの全社的案件選別プロセスでは、短期経営目標と案件選の別をリンクさせるだけでなく、ユーザー部門のコミットにより全社ROIの極大化を図れるIT戦略会議など一連の流れを整えた。

 だが、長期的経営目標と照らし合わせれば、短期的に「ひずみ」が生じるものだ。このひずみを恒常的に是正する手法としてE.A.を取り入れた。共通言語と統一した手法でシステムをモデル化し、その全体像と相互関係を分かりやすくした。これにより、大規模システムが可視化され、管理が容易になるほか、組織を横断した一貫性、システムの無駄などが経営層にも把握できるようになるという。また、新技術の戦略的導入も可能になり、システムの陳腐化を防ぐことにもなる。

「E.A.は、都市計画に例えられる。たとえばパリは長い歴史を持つが、一貫して放射線都市計画をとっており、今も変わらずそれを維持している。一方、東京は膨張型だ。高速道路を作るたびに用地買収を行っている状態といえる。長期的に見ればパリの方がコスト安ということになる」(田中氏)

 IBMのコンサルテーションを受けながらE.A.を採用したBTMだが、田中氏は最後にパートナーとの協働体制も強調した。「パートナーは単なるベンダーではない。ビジネス上のパートナーだ。経営者の視点でコラボレーションする必要がある」。

UMLを超えて

 ラショナルソフトウェアのメソロジスト、ジェームズ・ランボー氏は、21世紀のソフトウェア開発という観点から講演を行った。同氏は、UMLの生みの親の一人に数えられている人物。

 ランボー氏は、「UMLはデファクトスタンダードになっているが、モデルは多くのツールの中の1つにすぎない。モデリング言語を定義することから、それを使って、どうソフトウェアを作るかの時代になっている」と話す。

 21世紀のソフトウェア開発ツールは、(1)モデルを捕らえるものから意思決定を捕らえるものへ、(2)モデルにフォーカスするものからアプリケーションにフォーカスするものへ、(3)モデルエレメントから再利用可能な資産のライブラリへ、(4)硬直したものから柔軟なものへ、(5)図式としてのモデルからモデルのコンテクストを分析するものへ、(6)孤立したものから統合されたものへ――変化していくという。

ランボー氏

グラディ・ブーチ氏、イヴァー・ヤコブソン氏とともにUMLの3アミーゴとして知られるジェームズ・ランボー氏


 同氏は、シビルエンジニアリングなど伝統的な工学の見地をソフトウェア開発に取り入れる必要がある、という視点で話を進めた。工学は100年以上の歴史を持ち、ソフトウェア開発でも取り入れるべきものは多いようだ。

 たとえば、モデルの考え方においては、家を建てるときのモデリングを例にあげる。建築では、初期段階に全体構造をつかむためのモデルを大から小まで作るが、全体構造をつかむのが目的のため、釘の位置まで特定したりはしない。これはアプリケーション開発でも同様で、当初のモデルは正しいゴールを導く程度であれば良いという。ただし、人間は1つのモデルだけですべてを理解できるものではないので、複数のモデルを作り、さまざまな視点から全体構造を把握するためのビューを作る必要がある。そのためにツールを使う必要があると述べた。

 デザインにおいては、機能やアルゴリズムの選択など多くの意思決定で構成されているとし、「最終製品というのは意思決定の結果だ」と話す。そのためには、意思決定のプロセスを捕捉しておき、デザイン変更が行えるようにしておく必要があるという。

 だが、デザインはあたかも「迷路」のようなもので、ゴールのためにはガイダンスが必要となると語る。そのガイダンスが、エンジニアの経験であり、再利用可能なパターン・フレームワーク・アーキテクチャを選択する経験だという。一般的パターンなどを再利用すれば、必要な特定の部分だけの開発に専念できるというわけだ。だたし、これら情報を見つけるのは難しく、多次元インデクシングなどが必要になる。また、システムがどのように動作するのかを分析できる必要もある。

 また、簡単なビューから複雑なビューへと変換することも重要になってくる。変換することによって、より効果的なビューを見つけることができるからだ。そのためには、変換のためのライブラリが必要となる。簡単なコードから複雑な構造を持つものへ、常に正しく変換されなければならないとも話した。

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関連リンク
▼IBM Software World 2003 & IBM developerWorks Live! with WebSphere 2003

[堀 哲也,ITmedia]