エンタープライズ:インタビュー 2003/05/27 22:07:00 更新


Interview:「UMLはツールに過ぎない。先ずは使い始めて」とラショナルのランボー氏

5月27日、「IBM Software World 2003 & IBM developerWorks Live! with WebSphere 2003」が開幕した。米国では2月に統合が完了したばかりのラショナルソフトウェアも、20以上のセッションを行うほか、UMLの生みの親、ジェームズ・ランボー氏を基調講演のために来日させた。

 日本IBMへの統合に向けて作業中のラショナルソフトウェアが、5月27日開幕のIBM Software World 2003 & IBM developerWorks Live! with WebSphere 2003ではひと足早く主役を務めた。

 これまでのIBMミドルウェア4ブランドに加えて、ITガバナンスの視点からオープンな開発環境を提供するラショナルは、新しい「Rational Rapid Developer」ツールやRational XDE(Extended Development Experience)およびRUP(Rational Unified Process)の機能強化を発表したほか、メソドロジストのジェームズ・ランボー氏を基調講演のために来日させた。彼は、オブジェクト指向設計・分析の権威で、UML(Unified Modeling Language:統一モデリング言語)の生みの親の一人。グラディ・ブーチ氏、イヴァー・ヤコブソン氏らと共に「スリーアミーゴ」と呼ばれ、デベロッパーらの尊敬を集めている。

 基調講演を終えたランボー氏に話を聞いた。

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名著「Object Oriented Modeling and Design」(1991年)で知られるランボー氏


ZDNet ランボーさんは、大学では天文学を学ばれたそうですね。

ランボー 確かに1年だけ天文学を専攻しましたが、(マサチューセッツ工科大学で取った)修士号は物理学でした。博士号を取得したコンピュータサイエンスは片手間だったのですが、そちらの方がうまく行ったので、ずっと今に続いています。

ZDNet 大学で物理学などを学んだことが、オブジェクト指向の開発手法などに役立ったのでしょうか? 興味があります。

ランボー 近代の物理学というのは、さまざまな事象の裏側で作用しています。また、1つの分野で学んだことを別の分野に持ち込むことで新しいアイデアの素になったりしますね。

ZDNet ランボーさんがオブジェクト指向言語や「OMT法」と呼ばれる有名な方法論を開発された1980年代は、CASE(Computer Aided Software Engineering)が脚光を浴びていましたが、どこへ行ってしまったのでしょうか?

ランボー CASEはあまり良いネーミングではありませんでした。それに、ツールも何か上司から与えられたものみたいで、ユーザーに対して直接、目に見えるメリットを提供しませんでした。むしろ、異なるメソッドにそれぞれ熱狂的なファンが存在し、宗教的な聖戦が繰り広げられているだけでした。

ZDNet あなたと共に「スリーアミーゴ」と呼ばれるブーチさんやヤコブソンさんも、そのころ、オブジェクト指向の設計手法を開発しています。UMLが生まれるまでの背景を教えてください。

ランボー ラショナルのデブリンCEOが機会を与えてくれました。ブーチ氏と議論しながらブーチ法とOMT法を統合する作業を進めていると、あとから(1996年に)ヤコブソン氏も買収によって合流しました。これによって3つのオブジェクト指向の設計手法が一つにまとめられ、UMLとして統一されたのです。

 私はいろんな分野を学びました。科学や工学(エンジニアリング)の歴史も学びました。そうした私の目からすると、ソフトウェアプログラマーらにはあまりにも「規範」がないと感じていました。確かに新しい分野なので、規範を守らせるには長い年月が必要になります。実際に近代工学も200年を要しました。18世紀には、多くの橋が崩落していました。そうした経験から学び、規範を作り上げることで今では落ちなくなったのです。ソフトウェア開発もそうあるべきです。

ZDNet 米国の建築基準は、街が丸ごと焼失してしまうような大火から人々が学び、作り上げられたと聞いたことがあります。

ランボー そうです。問題は、当時の人々が安全性に優先度を置かず、お金を支払わなかったことです。50年前の自動車も危険なものでした。しかし、今の自動車はシートベルトが付けられたのをはじめ、さまざまな安全対策が施されています。顧客が安全性は価値あるものだと知り、お金を支払うようになったからです。

 また昨晩(26日)、日本では大きな地震がありましたが、被害は最小限だったと思います。耐震性についての建築基準がそれだけ厳しくなっているおかげです。私の出身地であるサンフランシスコも地震の多い地域で、日本と同じです。しかし、最近、大きな地震災害に見舞われたトルコやアルジェリアでは基準が甘いのではないでしょうか?

 政府の規制もあるでしょうし、顧客も安全でありたいと考えているでしょう。また、保険業界が保険金を支払いたくないという事情もあります。そうしたすべてが安全性向上に貢献していると思います。

ZDNet 保険業界ですか?

ランボー そうです。いずれにせよ、みんなが主張することが重要です。そうしなければ始まりません。セキュリティ上の欠陥があったり、品質の悪いソフトウェアは、顧客にとっては逆にコストが高くつくと理解すべきです。より良いデザイン、より良いアーキテクチャ、より良いテスティングを要求すべきなのです。そして、そのやり方はわれわれラショナルが熟知しています。

UMLはマジック?

ZDNet スリーアミーゴが作り上げたUMLなのですが、今日の基調講演では、「UMLを超えて」がテーマとなっていました。その狙いは何でしょうか?

ランボー UMLは何も神から授けられたマジックではありません。開発者に使ってもらうツールに過ぎないのです。人がモデリングをするのです。UMLが完璧なものかどうかを心配する前に、先ず、自身の可能性を信じて使ってみてほしいのです。逆にUMLを偶像崇拝されても困ります。

 もちろん、われわれはUMLを信じています。これ以上、新しいモデリング言語を開発することが意味あることだとは思いません。もっと良いものが出てくるのではないかと考えず、今すぐに使ってほしいのです。日本語や英語があるのに、それを修正して新しい言語を作るのではなく、それで新聞を作ったり、小説や詩を創作しようと言っているのです。

 プログラミング言語もそうです。Pascal、COBOL、C/C++、SmallTalk、Java……とさまざまありますが、選ぶことに幾ら時間を費やしても作業が終わるわけではありません。

ZDNet 開発手法のベストプラクティスもそうですか?

ランボー われわれのベストプラクティスは、20年培ってきた開発手法をまとめているRUP(Rational Unified Process:反復開発によって目標に近づくことができる)ですが、他社にもベストプラクティスはあります。大学の先生は、それらを比較するわけですが、これは宗教と同じです。どれか決めてしまえば、ずっとそれを続けていくことになり、どれが良い悪いという議論ではありません。

ZDNet 日本は欧米に比べて、本来、モデリング開発を行うべきプロジェクトであっても、その採用比率が低いと聞いています。日本の開発者たちにメッセージをいただけますか。

ランボー 確かに米国に比べて3〜4年、欧州と比較しても少し遅れているといわれています。しかし、私は10年ほど前から日本に来ていますが、確実に前進していて、決して悪いとは思いません。エンジニアリングの規範を取り入れ、専門性の基準を上げていってもらいたいと思います。



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[聞き手:浅井英二,ITmedia]