エンタープライズ:コラム 2003/09/18 07:43:00 更新


Gartner Column:第110回 Sunの新戦略はMicrosoft流ではなかった

SunNetwork 2003において、コンセプトだけが発表されていたSunのプロジェクトOrionの詳細が発表された。Java Enterprise Systemという地味な名称ながらSunの決意が表れた新ソフトウェア製品は、テクノロジー面というよりもビジネス面での革命と言えそうだ。

 Sun Microsystemsが、ハードウェアベンダーから総合システムベンダーへの急速な転換を図っているのは周知のところだろう。「ソフトウェア産業などは存在しない。ソフトウェアはハードウェアのオプションである」という2000年秋の米ガートナー・シンポジウムにおけるスコット・マクニーリー氏の爆弾発言から考えれば大きな変化である。

 Sunがシステムベンダーへの変革を成し遂げる上で重要な要素が今年の2月に発表されたプロジェクトOrionである。その時点では、同社の多様なミドルウェア群を四半期ごとにSolarisと共に統合テストし、統一した価格体系で、一括して提供することのみが発表され、具体的な価格とライセンス体系は後に発表されることになっていた。

 ソフトウェアスタックの統合とバンドルにより、ユーザーがソフトウェア管理と統合作業を軽減できるのは確かである。しかし、それだけでは目新しい戦略とは言えない。本コラムの第48回「サンの新戦略はマイクロソフト流?」でも書いたが、まさにMicrosoftが昔から行っていた戦略であり、最近では、BEA Systems、IBM、Oracleなども自社のミドルウェア製品を統合、バンドル販売する戦略に出ている(ちなみに、ガートナーではこのような統合基盤ミドルウェア製品をAPS(Application Plaform Suite)と呼んでいる)。

 しかし、Orionの最大のポイントはその価格とライセンシング体系にあったのだ。

 現在のエンタープライズ向けソフトウェアの料金体系は何らかの形で従量制になっていることが多い。CPU数ベース、サーバの処理能力ベース、登録ユーザー数ベース、コネクション数ベースなどである。このような価格体系は初期展開コストを低く抑えながら、システムの規模拡大と共にライセンス料金が増えていくため、ソフトウェアベンダーにとっては都合の良い価格体系である。

 しかし、ユーザーにとっては、コスト管理の複雑性が高く、場合によっては不公平感があった(例えば、同等の処理能力であっても、マルチプロセッサのCPU数の多さで性能を稼ぐ設計のサーバの方がソフトウェア料金が高くなってしまう)。

 Sunは、米国で開催されているユーザーコンファレンス、Sun Network 2003において、Orionの正式名称をJava Enterprise Systemとすると共に、その価格体系も正式に発表した。シンプルな価格体系になるとは予告されていたが、まさに、これ以上はシンプルにしようがないというものだ。「従業員一人あたり年間百ドル」と13文字で言い表すことができる。

 例えば、従業員1000人の会社であれば、年間10万ドルで、Java Enterprise Systemのソフトウェア群を自由に使うことができる。仮に、この会社がWebサイトを運営しており、10万人の社外ユーザーがシステムにアクセスしていたとしても追加料金の必要はない。

 Sunにとってみれば、せっかくの収益機会を逃がしているかのように見えるかもしれないが、大規模なWebサイトを運営すると言うことは、Sunのサーバを大量に買う(注:Java Enterprise SystemはSunのハードウェアのみをサポートする)ということなので、十分元は取れるということだろう。

 さらに、サービスプロバイダーに有利な価格体系ということで、Sunが長年推し進めているサービスプロバイダー重視の戦略とも合致する。MicrosoftやOracleなどのソフトウェア専業ベンダーには取り得ない戦略である。

 なお、Orionの正式名称は、Java Enterprise Systemとなった。これは一見、地味なネーミングではあるが、なかなか良く考えられていると思う。ソフトウェアの世界におけるサンのアイデンティティと実力を示すには“Java”は最も効果的なキーワードだからだ(一方で、Sunのハードウェアのみをサポートする製品に“Java”ブランドをつけることについては、Javaコミュニティーからの反発もあるかもしれない)。

 Sunの戦略の根底にあるのは、ユーザーの負担となる複雑性を徹底的に排除するということである。今回の発表はテクノロジー面だけではなく、管理面からこの課題に挑戦するものだ。価格体系だけでなく、ライセンスの法的条件も簡素化し、契約書も数ページに収まるものとするようである。また、媒体も1枚のDVDで提供されるようだ。

 Sunの戦略は大規模顧客の悩みにこたえた適切なものといえるだろう。Sunのソフトウェアビジネスの総責任者であり、今や同社の実質ナンバー2といえるジョナサン・シュワルツ氏は、数百社に及ぶ顧客との対話により最終的な戦略を確立したと話す。

 ただし、四半期ごとに統合テストを行ったソフトウェアを継続的に出荷するということは決して容易なことではないだろう。ソフトウェアの開発の遅れは日常茶飯事だからだ。Sunがこの課題を克服できれば、ソフトウェアの世界でもリーダーになれる可能性は十分あると言っていいだろう。

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[栗原 潔,ガートナージャパン]