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2004/04/20 22:10 更新


OSの遠距離アップグレードを受けたマーズローバー

火星に着陸し、無線操縦を通じて赤茶けた惑星の表面の探索を開始して3カ月が経過した2台のマーズローバーに対し、一部の不具合を修正し、パフォーマンスを改善するための遠距離ソフトウェアアップグレードが行われた。

 NASAが昨年6月と7月に打ち上げたマーズローバー「Spirit」と「Opportunity」には、宇宙での猛烈な高温、低温、放射線に耐えるよう特殊な処理を施されたコンピュータが搭載されている。打ち上げ時には、ローバー用OSのリリース7が組み込まれていたが、火星着陸直前にリリース8にアップグレードされた。

 Spiritを担当するミッションマネジャー、マーク・アドラー氏によると、先週、同OSのリリース9が各ローバーにアップロードされたという。「巨大なソフトウェアを開発した場合、必ず修正すべき部分が出てくるものだ」と同氏。

 ミッションに参加した科学者たちが修正したいと思った欠陥の一つは、Opportunityのヒーターが常時オンになっているという問題だ、とアドラー氏は話す。ヒーターが大量の電力を消費するからだ。電力はローバーに搭載されたソーラーパネルで生み出す必要がある。故障したヒーターをオフにするには、ローバーのすべての電源を切るしかないが、この方法に対して科学者たちは難色を示した。いったん電源をオフにすると、ローバーが再起動しない恐れがあるからだ。

 ミッション責任者はこの問題を解決するため、アップデート版OSに「スリープ」モードを含めることにした。スリープモードは、Opportunityのロボットアームに取り付けられたヒーターの電源を切るのではなく、ローバーを深いスリープ状態にするというもの。これにより、探査機の動作停止という危険を冒すことなく電力を節減することが可能になる。スリープモードでは、毎朝、太陽がソーラーパネルを照らすまでローバーは不活性状態になる、とアドラー氏は説明する。「幸いなことに、太陽は非常に信頼できる」(同氏)

 アドラー氏によると、ロボットアームのヒーターに問題がないSpiritも、OSのアップグレードの恩恵を受けるという。リリース9には、両ローバーに対する移動命令の重要なアップグレードも含まれているため、より長い距離を移動することが可能になるのだ。計算機能の改良、およびローバーが進行方向にあるものを伝えるために地球に送信する画像の解像度の向上により、両ローバーの移動距離は1日当たり約43フィート(13m)から約105フィート(32m)に伸びる見込みだ。ローバーの平均速度は、秒速0.5インチ(1.3cm)以下。

 「約1億キロメートルのかなたからOSをアップグレードするというのは、決して容易なプロジェクトではない」とアドラー氏は話す。地球上ではローバーの複製が試験台として使用された。このプロジェクトでは、電子装置と制御システムの複製およびテスト用アップロードも使用して、アップロードが正しくロードされ起動するかを確認する作業が行われた。

 「これらすべてについて多くのテストを実施し、われわれはテストの結果に満足した。あとは無線信号でアップデートを送信するだけだった」と同氏は話す。アップグレード版ソフトウェアは毎秒2Kビットで送信され、全部で8Mバイトのファイルのアップロードが完了するのに3日間かかった。4月12日の時点でSpiritにアップデートが組み込まれ、4月14日までにOpportunityへの組み込みが完了した。アップデートは各ローバーのハードディスク上の予備パーティションにロードされた。アップロードが完了した時点で、科学者たちはローバーをリリース9ソフトウェアに切り替え、作業の成功を確認するために一連の最終チェックを実施した。

 両ローバーに組み込まれているのは「VxWorks」というOSで、カリフォルニア州アラメダのWind River Systemsが開発した。同OSは、ロケットが火星に接近する軌道、降下および着陸の制御を行ったほか、ミッションでの運用コントロール、データ収集、通信処理も担当する。

 VxWorksは、各ローバーに搭載された20MHzの「PowerPC」CPUに組み込まれている。同CPUは特殊な放射線対策が施されており、128Mバイトのメモリを装備する。このプロセッサは、1990年代半ばに選定された時点では最先端のハードウェアだったが、宇宙空間の放射線にさらされる環境で信頼性を確保するために特殊処理を施す必要があり、その作業に5〜10年の時間を要した。

 NASAは4月初め、当初予定されていたローバーの3カ月の任務を延長し、最大でさらに5カ月間にわたって探査活動を続けさせることを決めた。

 アドラー氏によると、火星の表面上では、今のところすべて順調だという。「毎日、新たな発見、新たな場所の連続だ。彼らがこのまま働き続ければ、電源を切るのがつらくなりそうだ」

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