特集
2004/05/21 16:52 更新

第十回
安易なポータル製品の導入に潜む落とし穴 (2/2)


Webパーツ間連携

 さて次に、もう一つの機能的相違点であるWebパーツ間連携について説明する。このWebパーツ間連携機能は、特に大企業のように個別業務毎に専用アプリケーションが乱立している場合に非常に効果を発揮する。

 実は、前述したコンテンツアグリゲーションによって複数のシステム上の情報を一つのポータル画面に表示しただけでは、インフォメーションワーカーの作業負担が直接的に軽減されるわけではない。

 再度、先ほど挙げた営業員の例で説明をすると、いくら複数のシステムが一つの画面に出ていたとしても、スケジュール内容を見たあとにドキュメントデータベースの検索機能で「A社」と入力したり、CRMシステムでA社を呼び出すといったように毎回操作を行うのであれば、インフォメーションワーカーが操作に費やす所要時間はあまり短縮されるわけではない。

 Webパーツ間連携機能を実現すると、このユーザー操作を人間の代わりにシステムにやってもらうことが可能となる。上記の例で言うと、ユーザーがスケジュールのWebパーツ上で顧客先をA社と指定した場合に、残る3つのWebパーツが即座にこれに反応し、それぞれの表示画面を切り替えることが可能である。

fig03.gif

 このように複数のインターネット技術基盤上で複数のアプリケーション間で連携を行うには、データ形式としてXML(eXtensible Markup Language)、そしてデータアクセスプロトコルとしてはSOAPといったテクノロジーが活用される。

 SPSはポータル構築アプリケーションであるため、このようなWebパーツ(ポータルで一般的にポートレットと呼ばれているものをSPSではこう表現している)間の連携を実現するための開発環境が用意されている。SPSの場合、こういった開発は.NET Frameworkを利用して行うこととなる。この.NET FrameworkはXML Web サービスに完全に準拠しており、こういった連携機能の実現に際しての汎用性は非常に高い。

 もし連携対象となるコンテンツに対するWebパーツがマイクロソフトから標準で提供されるものであった場合は、こういった設定はブラウザから簡単に操作するだけで実現が可能である。余計な開発は一切必要ないのである。

Webグループウェア製品の場合、HTMLのIFRAMEタグの機能を使って同一画面に複数システムの画面を同時に表示させる機能までは実装していることがあっても、こういったXML Webサービスまでを実装しているものは皆無に等しい。

規模や組織の拡張性

 さらに上記のような機能的な拡張面以外にも、組織的な拡張性という面でWebグループウェア製品では限界が多い。SPSではエリアという概念を使うことで部門別、職種別のポータル画面を拡張する。この機能を応用して階層的な全社ポータルサイトの構築と、ポータルシステムの段階的導入を行うことができる。

 企業の経営環境の変化に伴い、昨今はやりの本部制を取るような企業の場合、同じ会社内でも業務内容はまったく異なり、日々の仕事の進め方はさながら別会社であるようだといったケースは多い。業務内容が異なるということは、当然必要となる情報の種類も使い方も異なるということである。こういった組織環境において、全社員に画一的な機能のグループウェアを使えというのでは、インフォメーションワーカーの仕事はまったく楽にならない。

 このように大きな組織では、階層的な複数のサブサイト構成を採用して、インフォメーションワーカーが個別業務の中で使用する末端のポータルサイトは、それぞれの業務内容に合わせた内容とすることが現実的だろう。

 SPSではこのような階層的ポータルサイトの編成が簡単に実現できると共に、階層の上位からトップダウン的にポータルを構築していくことも階層の下からボトムアップ的に構築していくことも可能である。

 これまで述べてきたように、Webグループウェア製品とSPSのようなポータル構築アプリケーションはまったく異なるものである。Webグループウェア製品には、比較的小規模のチームワーカー間で情報を交換するのに最適化されたいくつかのツールが予め組み込まれているが、所詮はそれらのコンテンツを格納するデータストレージの延長軸上に位置づけられるツールである。これは新たにWebグループウェア製品を導入する場合に、既存データの移行作業が発生することからも分かる。いままで蓄積してきたデータをどうやって移行するか? Webグループウェア製品の導入はすなわち、データの所在の追加や変更作業という意味なのである。

 その点、SPSの場合、既存のインフラを活かしたままインタフェースの追加で対応できるため、こういった移行作業や準備作業が必要になることは少ない。データストレージの追加ではなくデータへのアクセサビリティとユーザビリティの拡張作業という意味合いとなる。SPSはコンテンツそのもの存在目的に注目して、それらの見せ方から活用の仕方を効率化するツールだと定義づけけられており、Webグループウェア製品とは決定的に意味合いが異なる。

 ポータルというのはインフォメーションワーカーにとっては日々の業務を遂行していくための基盤となるツールであり、ワークプレイスそのものである。その性格からいっても、初期に大規模な導入が行われてそれで終わりというわけではない。インフォメーションワーカーのワークスタイルの進化に合わせて、長期的かつ継続的に追加の開発を行っていくものである。特に大規模な組織におけるポータルの初期導入の場合、将来的にさまざまな問題が発生しないように戦略的にツールの選定や導入と拡張を行うべきである。安価で手軽だからといってWebグループウェア製品を、その場しのぎ的に導入していった結果、結局情報ストアの場所が分散してしまって、ユーザにとっては欲しい情報がどこにあるのかが分からなくなってしまうという結果だけは避けたいからだ。