コラム
2004/05/25 00:10 更新

国内代表者に聞くオープンソースの今:
より広く、深く、ネットワークと融合するKNOPPIX、産総研 須崎有康氏コラム

CD一枚で利用可能なLinuxディストリビューションの「KNOPPIX」。最新版3.4のリリースに加え、より手軽に使える環境をLinuxエミュレータ「UserModeLinux」で構築した派生版も生まれてくるなど、広がりを見せている。

 Linuxチャンネル連載「国内代表者に聞くオープンソースの今」。今回は、CD一枚で利用可能なLinuxディストリビューション「KNOPPIX」の日本語版を手がける産業技術総合研究所(産総研)の須崎有康氏にコラムを執筆いただいた。


KNOPPIX 日本語版

 「KNOPPIX」とは、Klaus Knopper氏がDebian GNU/Linuxをベースに開発したCD一枚で利用可能なLinuxだ。日本語入力環境や日本語メッセージの翻訳などを施した日本語版は、産業技術総合研究所のメンバーを中心にメンテナンスされている。

 KNOPPIXはハードディスクを使わずに起動するため、ハードディスクにインストールしてあるOSに関係なく、Linuxのアプリケーションを試すことができる。起動のためにBIOSでCDからブートするように設定しておくだけでよい。後はKNOPPIXのAutoConfig機能がデバイスを自動認識してドライバの自動設定を行う。

 KNOPPIXは圧縮ループバックデバイスcloopを用いて、700MバイトのCDに2Gバイト程度のコンテンツを収録している。デスクトップマネージャ「KDE」、オフィスソフト「OpenOffice.org」、画像編集ソフト「GIMP」、Webブラウザ「Mozilla」、メールリーダ「Sylpheed」などが起動後すぐに利用可能となっている。

 日本語版ではフォントにkochi-subsetを採用し、OpenOffice.orgの日本語利用やプリンタでの利用を可能にしている。また、入力環境としては、UNIX系で定番だった入力方式「kinput2」と日本語変換エンジン「FreeWnn」の組み合わせをデフォルトで採用しているが、ブート時のオプションで他言語入力方式の「UIM」に予測入力の「prime」あるいはセキュアな変換エンジン「Anthy」の組み合わせ(uim+primeあるいはuim+anthy)に切り替えることもできる。そのほか、日本語版ではライセンスの関係で独自に作成したJRE&Acrobat Readerインストーラを付加したほか、LinuxエミュレータのUserModeLinuxへの拡張も行っている。

KNOPPIX 3.4のリリース

 つい先日となる5月4日、オリジナル版KNOPPIXが3.4へとバージョンアップしたことに伴い、日本語版も5月11日に3.4をリリースした。3.4で新たに加わった機能は下記のものである。

  • Linuxカーネル2.4(標準)と2.6(オプション)のハイブリッド構成。ブート時に切り換え可能
  • USBやIEEE1394接続のCD-ROMドライブからでもブート可能
  • captive-ntfsによるNTFSへの書き込み
  • live-installerによりCDブートでもアプリケーションのインストールが可能

 また、日本語版においては独自で作成したJRE&Acrobat Readerインストーラをlive-installerに統合している。

さまざまな派生

 KNOPPIXの日本語版は産総研の専売ではなく、他のグループでも開発されている。オリジナルからの拡張としてはYAK(Yet Another Knoppix)版、2chビューアを付けたLCR版、CJK(Chinese-Japanese-Korean)版などがある。

 KNOPPIX日本語版をベースとした拡張としては、Knoppix-EduとKNOPPIX/Mathが活発な活動をしている。KNOPPIX-Eduはアルファシステムズと東北学院大学が工学部教材として開発しており、BASIC、FORTRAN、CASLなどのプログラミング演習やCAD演習ソフト、回路シミュレータなどが収録されている。また、簡単に授業に導入できるようにメニュー選択が工夫されており、BASICならインタープリタとコンパイラがセットで起動する。

 KNOPPIX/Mathは数学アプリケーションの数式処理システムMaxima、Risa/Asir(OpenXM)、数値計算システムOctave、統計処理システムRなどが収録されている。このKNOPPIX/Mathは日本数学会の2002-3年度の年会で展示された際に非常に好評を得て、現在、各大学(福岡大学、神戸大学、筑波大学、他)でFTPのミラーも行われている。

 また、日本電子専門学校では演習室がKNOPPIX日本語版を使って運用している(5月21日の記事参照)ほか、USBブートへの対応やオリジナルの拡張を施した「Green Barbarian」と名付けたKNOPPIXも開発している。

UserModeLinuxを使った応用

 産総研はLinuxエミュレータ「UserModeLinux」でのKNOPPIX利用を可能にしている。これによりCDを作成しなくてもKNOPPIXを試すことができるほか、複数のKNOPPIXを同時に立ち上げて比較することも可能である。さらに産総研では、WAN対応ファイルシステム(SFS:Self-certifying File System)を利用し、CDイメージをダウンロードしなくてもUserModeLinuxを介して起動できる環境を提供している。

UserModeLinux for KNOPPIX on Self-certifying File System

 UserModeLinuxの応用はさらに続き、これまでのCD起動型では不可能だったカスタマイズを可能としたKNOPPIXも開発した。これはUserModeLinuxのCOW(CopyOnWrite)というディスクの更新差分を保存する機能を使って実現している。このKNOPPIXではDebian GNU/Linuxのパッケージ管理を使ってアプリケーションの更新が可能になるだけでなく、更新した部分のみを保存して他の人に渡すこともできる。今までKNOPPIXのカスタマイズを行う場合はCDの作り直しが必要であったが、アプリケーションの更新だけなら差分だけ加えるだけでUserModeLinux上でオリジナルのKNOPPIXを試すことが可能となった。

 UserModeLinuxはLinux on Linuxであるが、今後、Windows上のLinuxエミュレータcoLinuxにも対応させる予定である。

uml.jpg

UserModeLinuxでEdu(左)とMath(右)を起動(クリックで拡大します)


ネットワークと融合するKNOPPIX

 産総研ではKNOPPIXのさらに拡張を計画している。大目標は今までハードディスクに縛られていたOSがネットワークを使ってどこまで開放できるか試すことである。そのひとつの拡張がSHFS-Persistenthomeという、個人データをSHFS(SHell File System)を使って他のマシンに保存する機能である。SHFSを使えばsshが使えるUNIX系のマシンなら特殊な細工をしなくてもファイルの保存が可能となり、UserModeLinuxからでもCDからでも同じ個人データを使いつづけることが可能になる。

 このほか、WAN環境を介したKNOPPIXクラスタ化も検討している。SoftEhter.comで提供されている匿名仮想HUBと同様なものを構築して、Flashmobs Computingで行われているアドホックなクラスタマシンのネットワーク版を考えている。P2Pと組み合わせた応用などを考えているが、いずれにしろネットワークもマシンもアドホックになるため、それに適したComputingを開発していきたいと考えている。

 なお、KNOPPIXの開発はメーリングリストを中心に行っている。興味がある方は下記URLより参加して情報収集・発信を行ってほしい。

KNOPPIXメーリングリスト

[須崎有康,ITmedia]

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