日本のICT産業の課題とは? 「情報通信白書」で読み解く解決法:Weekly Memo(1/2 ページ)
総務省が先頃、日本のICT産業における現状や課題をまとめた「平成28年度版 情報通信白書」を公表した。その中から筆者が興味深く感じた図表を取り上げながら、日本のICT産業が抱える課題について考察したい。
IoT・AI活用で2020年度にGDPを5.9%押し上げも
総務省が毎年この時期に刊行する「情報通信白書」は、今回で44回目を数える。国内のICT関連統計資料として最も長期かつ広範囲に網羅しており、一部を除いてオープンデータとして利用できるようになっている。最新版では、「IoT・ビッグデータ・AI 〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜」と題した特集を組み、ICT分野の新たなトレンドについて、さまざまな角度から分析している。
本コラムでは、その中から筆者が特に興味深く感じた内容について、ポイントとなる図表を取り上げながら、日本のICT産業における課題について考察したい。
まず、図1は企業におけるICT投資の現状を示したものである。日本の大きな課題の1つである少子高齢化による労働力不足に対処するためには、積極的なICT投資を行い、生産性向上を図っていくことが重要だ。しかし、これまでの日本企業のICT投資は、業務効率化およびコスト削減の実現を目的とした「守りのICT投資」が中心だった。一方、米国企業は「ICTによる製品/サービス開発強化」「ICTを活用したビジネスモデル変革」などを目的とした「攻めのICT投資」が目立っている。
図1の右側のグラフは、今後の日本企業のICT投資がハードウェアからソフトウェアやサービスへとシフトする見通しであり、クラウドなどの生産性向上に寄与するICTの導入が進む可能性があることを示唆している。攻めと守りのICT投資の違いを、とても分かりやすく示した図である。
図2は経済成長へのICTの貢献に向けて、ICT成長による実質GDPへのインパクトを示したものである。企業によるICT投資が積極的に行われることで、2020年ごろまでの潜在経済成長率がどの程度加速するか、マクロ生産関数を使って推計している。基本的な見方としては、経済が足元の潜在成長率並みで将来にわたって推移するとした「ベースシナリオ」と、IoT(Internet of Things)・ビッグデータ・AI(人工知能)などのICT進展を見据え、企業におけるICT投資や生産性向上に関わる取り組みが活性化する「ICT成長シナリオ」を比較することで検証する形となっている。
その結果、IoT・ビッグデータ・AIなどのICT投資が進展すれば、日本の経済成長は加速し、2020年度時点で実質GDPを約33兆1000億円(プラス5.9%)押し上げるほどの効果が見込まれるという。このGDPへの貢献という視点は、ぜひ“基幹産業”に携わる人間ならば持っておきたいところである。
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