Excelマクロで年間35万時間を削減、それでも三井住友海上がRPAを導入した理由:【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(2/5 ページ)
金融関連業界を中心に導入が広がりつつあるRPA。アクセンチュアと協力してRPAを導入した三井住友海上もそんな企業の1つ。しかし、同社はもともとExcelマクロを使った業務自動化を進めていた。彼らがExcelマクロに加えてRPAを導入した理由はどこにあるのか?
「この業務を自動化したい」というニーズは全社から集まった。当初は近田さん1人で対応していたが、最終的には17人まで増員し、現在は300以上の業務を対象に1クリックツールが稼働中だという。
開発メンバーは増えたものの、それ以上にニーズが多いため、全ての依頼に対応するのは難しい。そのため、自動化したい業務を社員から広く公募する「目安箱」という投稿フォームを社内イントラに設置。どれだけ全社で作業時間が削減できるのかという効果や、賛同者の数や属性などで着手する案件を決めている。
ツールを作成する際には、投稿者や業務の担当者と電話やメールなどで、細かいヒアリングを行う。例えば、1カ月あたり10時間かかる作業を、全国で約500人が行っているとすれば、合計で5000時間削減できる。ツール作成による効果測定はシビアだ。
稼働状況を記録し、使用状況をランキングにしたり、実際に使った人に効果を聞いてレポートをまとめたり、ツール作成後のフォローもきっちりと行う。「ランキングやユーザーの声がPR効果になり、またユーザーが増えるという好循環が自然発生的に起こった」(近田さん)という。
バックエンド部門の「隠れたニーズ」をどうすれば拾えるのか?
1クリックツールは、なんと全社で約35万時間(1年あたり)を削減するなど、大きな成果を上げたが、それに伴って課題も見えてきたという。1つはExcel VBAに起因する制限だ。「他のシステムと連動させる場合、Excelと親和性の高いIE以外のブラウザやオフラインソフトの制御は難しいケースが多かった」と近田さん。
もう1つは、業務自動化の「隠れたニーズ」だ。Excelマクロや目安箱の仕組みはうまく機能しており、社内文化として定着している。しかし「自動化してほしい」と声を上げるのは、全社で見ればあくまで一部にすぎない。
賛同者が集まる業務にもやや偏りがあった。営業部門や保険の支払い作業を担当する損害サービス部門など、エンドユーザーに接している業務の方が、業務効率化が顧客満足度につながりやすいとして、優先される傾向にあったのだ。
「本社部門の人も勇気を出して投稿してくれることもありましたが、賛同者がなかなか増えない。そのような現象が続けば、次の投稿を諦めてしまいますよね。これではいつまでたっても、バックエンド部門の業務は効率化できないんじゃないかというジレンマがありました」(近田さん)
そして2016年の秋、同年4月に経営企画部に異動していた近田さんにアクセンチュアが声をかけたのがRPA導入のきっかけとなった。
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