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Chapter 1:クライアント/サーバーアプリケーションの仕組み

見出し 1.2.1 Windows DNA
 Windows DNAとは,Fig.1-11に示すさまざまなテクノロジを総称する言葉であり,そのような名前の製品やツールが存在するわけではない。

Fig.1-11 Windows DNA
fig.1-11

 Windows DNAに含まれるテクノロジのうち,主要なものは次のとおりである。

1)プレゼンテーション層

 プレゼンテーション層は,Fig.1-11の「ユーザーインタフェース&ナビゲーション」の部分に相当する。Windows DNAでは,Visual BasicやVisual C++などで実装したスタンドアロンアプリケーションだけでなく,HTMLによるユーザーインタフェースも含まれる。ここでいうHTMLとは,静的なページだけでなく,JScriptやVBScriptなどのスクリプト言語を用いた動的なページ(Dynamic HTML)も含む。

2)ビジネスロジック層

 ビジネスロジック層は,Fig.1-11における「ビジネスプロセス」の部分に相当する。ビジネスロジック層の開発を支援する重要な役割を果たすのが,MTS(Microsoft Transaction Server)である。Windows 2000において,MTSはCOM+と統合された。MTSとCOM+こそが,本連載のメインテーマである。

 MTSおよびCOM+については順を追って説明してゆくが,一言でいうならば,「ビジネスロジック層のプログラムをオブジェクト化して統合管理するサービス」である。MTSおよびCOM+では,COMという仕様に準拠したプログラム(これを「COMコンポーネント」と呼ぶ)を内部で管理する。

 COMについては次章で解説するが,ここでは特定の仕組みを備えるプログラム群のことだと理解してもらいたい。COMは,プログラミング言語の違いを吸収する仕様になっており,COMの仕様に基づいて開発されたプログラムは,Visual Basic,Visual C++,スクリプト言語(VBScriptやJScript)など,多種多様なプログラミング言語から呼び出すことができる。このことは,ビジネスロジック層を呼び出すプログラム――つまり,ユーザーインタフェースを提供するプレゼンテーションプログラム――は,多種多様なプログラミング言語で開発可能だということを示唆している(Fig.1-12)。

Fig.1-12 多種多様なプログラミング言語からの呼び出し
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 Windows DNAでは,ビジネスロジックプログラムをMTSやCOM+で管理することにより,開発者の負担を軽減する。

 MTSとCOM+は,Windows DNAにとって要(かなめ)ともいえる部分である。実際,3階層アプリケーションモデルやN階層アプリケーションモデルを構築するときに問題となる,1)トランザクション処理,2)クライアント/サーバー間の通信,という2つの問題は,MTSならびにCOM+が解決してくれる。具体的にどのように解決されるのかについては,「1.1.2 MTSとCOM+」で説明する。

3)データベース層

 データベース層に配置されたデータベースにアクセスするためのAPI(Application Programming Interface)としては,ADO,ODBC,OLE DBなどが利用される。これらのテクノロジは,データベースを扱うアプリケーションの開発者が日常的に利用しているものであり,すでに馴染み深いものとなっているだろう。

 データベース製品は,上記のAPIに対応していれば,基本的には何でもかまわない。Microsoft社の主力データベース製品であるSQL Serverでもかまわないし,ODBC 3.0ドライバと組み合わせればOracleを利用することもできる。

 ところで,Microsoft社は1999年の春に,最大データベースサイズや同時アクセス時のパフォーマンスなどに若干の制限を課したSQL Serverのデータベースエンジンを,「MSDE(Microsoft Database Engine)」としてリリースした。MSDEはSQL Serverと完全な互換性を備えながら,Visual Studio(Visual Basic,Visual C++など単体パッケージも含む)やMicrosoft Office 2000 Developerのユーザーであれば,再配布して利用することができる。そのため,SQL Serverを導入するほどの規模ではないデータベースアプリケーションの開発には,MSDEが使われてゆく場面も多くなるだろう。本連載でも,データベースエンジンとしてMSDEを利用してゆく。MSDEの詳細については,Chapter 3で説明する。

 そのほかにも,Windows DNAでは,統一された管理ツールや「MSMQ(Microsoft Message Queue)」と呼ばれるメッセージキューシステムも提供される。これらについては,順次必要に応じて説明してゆく。

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