プログラミング、心から「好きだ」と言えますか?:情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(13)
これほどビジネスや日常生活にITが浸透したいまになっても、「プログラマ35歳定年説」は依然としてささやかれ続けている。だが、本当にそうなのだろうか? プログラマという職種を見直してみると、そもそも“定年”という概念など存在しないのではないだろうか?
プログラマー“まだまだ”現役続行
市場競争が激化している現在、業務を支えるITシステムには機能と品質、コストを高いレベルでバランスさせることが求められている。特にシステムの機能を支えるソフトウェア開発には、設計仕様の確実な実装と、その後の運用保守、エンハンスなどのコストを抑えられる高品質な仕上がりが要求される。これはすなわち、企業やビジネスにとって、ソフトウェアを作り込むプログラマのスキルが一層重要な意味を持つようになっているということだ。
だが、周知のとおり、日本企業には多くの場合、プログラマを1つの専門職として育て上げようとする文化がなく、いずれは現場を離れて管理職に進むキャリアパスしか用意されていない。よって、耳にたこができるほど聞かされ続けてきた「プログラマ35歳定年説」はいまだに払しょくされていない。
ただ、気を付けたいのは、これを「スキルの高いプログラマの需要がない」と早合点しないことだろう。前述のように、企業やビジネスの状況はソフトウェア開発の“プロフェッショナル”を強く求めている。そして技術やツールは日進月歩で移り変わっていくが、「ソフトウェアは人が作る」という事実だけはどんな時代になっても変わらない。つまり「プログラマ35歳定年説」とは、キャリアアップを会社に頼る場合の話であって、年齢に関係なくスキルアップし続け、1人のプログラマとしてあらゆるビジネス機会をつかんでいくこと自体は可能なのである。
ではプログラマを生涯の職業とするために、何を学び、何を心掛ければ良いのか?――本書では、これを著者自身の経験に基づいて極めて具体的に解説しているのだが、すべてのアドバイスに一貫しているのは“自主性、継続性”という要素だ。
例えば、著者ははなから「スキルアップを会社に頼るべきではない」と指摘する。会社は「重要だと判断した技術領域に関してのみ、投資を行い教育する」。従って、生涯現役を貫くためには、常にアンテナを張り、業務で使わない技術についても書籍を読んで勉強したり、オープンソースのコミュニティや、同じ志を持つ者同士での勉強会に参加するなど、継続的かつ自主的にスキルを磨き続けるべきだと力説する。これが将来的に“プロフェッショナル”としてコンサルティングを行うなど、社外からも広く求められる能力の獲得につながっていくためだ。
「きれいなコードを書けるようになること」の重要性も主張する。前述のように、ソフトウェアにはさらなる品質向上と低コスト化が求められている。その点、誰にとっても読みやすいコードを書くことは、機能を効率的かつ確実に実装し、その後の運用保守、エンハンスコストを低減する――つまり「企業からの需要」にプロとして応えるための大きなカギとなるためだ。
著者は、そのためのスキルアップの手段として「コードレビュー」を勧める。例えば、コーディング工程で「機能は正しく作り込んだか」「エラー処理は正しいか」などを確認して「初めてコーディングが終わった」と考える。テストファースト開発でも、「まずテスト仕様をレビューし、テストコードもレビューし、次にそのテストに合格するように実装していく」。つまり「レビューを開発プロセスに組み込んで継続的に実践する」。こうして自分のコーディングの質、問題点を日常的に認識する習慣を築けば、自分のスキルを確実に向上させていけるためだ。
特に30〜40代の人にこそレビューは有効だという。管理者の立場にあっても、レビューを行えばコードの質やプログラマのスキルを精密にチェックできるし、一プログラマとしても、最新のコードに接し続けていれば、折に触れて新技術の知識が必要になるなどして、自分のスキルレベルを保てる。加えて、チームにレビューを定着させ、そもそも問題の少ないコーディングを心掛ける土壌ができれば、ソフトウェアの品質担保をテストに頼り過ぎてコストやリソースを浪費してしまう“テスト中毒”に陥ることも防げるのだと説く。
著者は、こうしたプログラマのスキルアップについて、「詩人が、優れた詩を作るために多くの詩を作り、多くの優れた詩を読み、優れた先輩詩人の指導を受けるのと同じ」と表現する。すなわち、プログラマはある種の「芸術家」であり、芸術家である以上、各自がプロであることを自覚し、会社や組織などに頼らず、自主的かつ継続的に腕を磨き続けていくことの方が、むしろ“本道”だということなのだろう。
また、著者は現役続行に大切な7つの力として、「論理思考力」「読みやすいコードを書く力」「継続学習力」「コンピュータサイエンスの基礎力」「朝型力」「コミュニケーション力」「英語力」を挙げる一方で、「50歳になったいまでもプログラミングしている」のは、何より「好きだし、楽しいからだ」と述懐している。確かに「好き」という気持ちがあれば、プログラミングに限らず自主的にスキルアップに取り組めるはずだし、いつまでも続けられるはずである。つまり、「35歳定年説」とは、その受け止め方によって「本当にプログラミングが好きなのか否か」が分かる試金石と言えるのかもしれない。“定年”を決めるのは、あくまで自分なのだ。
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