ソーシャルメディア・リテラシが収益を左右する情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(72)

ソーシャルメディアの進展に伴い、企業が収益を伸ばすためには、より一層、顧客理解を深めなければならない。

» 2011年12月13日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

Google+の衝撃

ALT ・著=山崎秀夫 他
・発行=ベストセラーズ
・2011年11月
・ISBN-10:4584133565
・ISBN-13:978-4584133569
・1333円+税
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 「ソーシャルメディアはコトラー博士のいう『成熟社会の高次欲求』を満たすために非常に適したメディアであるということができるでしょう。そして、それを実現したのがフェイスブックでした。そのフェイスブックの仕組みやツイッターの仕組みを参考にして、より一層洗練させようとしているのがグーグルプラスと考えられます」――

 本書「Google+の衝撃」は、2011年6月にグーグルが発表した新しいソーシャルメディア「Google+」がインターネット上のコミュニケーションや現実社会に与え得るインパクトについて考察した作品である。フェイスブックは「いいね」ボタンによって「承認欲求や自尊の欲求」などを満たし、『成熟社会の高次欲求』に応えることで多くの人々に支持されたが、Google+はそれに加えて「サークル」と呼ばれる仕組みを付加して「複雑な人間関係を簡単に表現」可能とした。これにより、ソーシャルメディアの可能性をさらに拡大したと説いている。

 この「サークル」とは、具体的には「プロフィール写真を輪の中に放り込む感覚で知り合いや友達を分類」できる機能。知り合いだけではなく、「自らがファンである憧れの相手もサークルの中に分類」できるなど、人間関係をカテゴリ分けできる点が特徴だ。フェイスブックも同様の仕組みを追加したが、「めまぐるしく変化する現実社会の人間関係の反映」に着目し、実現したグーグルに、筆者らは同社の広告獲得戦略に対する意識の高さを見出すのである。

 では、なぜグーグルは「Google+」を立ち上げたのだろうか。本書では、その理由として、フェイスブックとグーグルの検索サービスの最大の違いである「マーケティング広告に関わる『ネットワーク効果』の差」を指摘する。

 ネットワーク効果とは、例えば「A君が購買して面白いとつぶやいた音楽ならば、A君の友達のB君も『どれどれ、ちょっと買ってみよう』という可能性」が高まり、その結果、B君が「この音楽好き」とつぶやけば、さらにB君の友達のC君も興味を示すといった具合に、「芋づる式に生活者のネットワークを通して、売り上げが上がる可能性が高まる」ことを示す。

 広告を出稿する企業にとって、以上のようなネットワーク効果は大きな魅力となるが、グーグルの検索サービスでは、情報と情報の関連を押さえているだけで、人の顔、人のつながりが見えない。しかし生活者の購買行動は、確実に「仲間と会話して消費を決める」方向に変化しており、企業もソーシャルメディアマーケティングを重視し始めている。そうしたトレンドを考えれば、広告を主な収入源とするグーグルにとって、ネットワーク効果を確保することは不可欠だったというわけだ。

 実際、近年はiPhone、iPadに代表されるスマートデバイスの浸透により、これらと相性の良いソーシャルメディアのユーザーが急速に増えている。これはスマートデバイスの携帯性の良さも手伝って、企業活動に対する顧客の反応、クチコミがリアルタイムかつ広範囲に伝播することに他ならない。加えて、顧客の購買行動がクチコミによって左右されるトレンドにある以上、企業は常に顧客の声を聞き、クチコミが伝播するネットワーク、すなわち人間関係をつかむことが、収益・ブランドの向上を図る上で不可欠な時代に入りつつあるということなのだろう。

 さて、いかがだろう。このように顧客1人1人の声を傾聴し、その人間関係も重視するという点に注目すると、2000年ごろに流行し、失敗例が続出したCRMという言葉が想起されないだろうか。 周知の通り、CRMは「ITシステムを使いさえすれば成功する」という勘違いを犯し、失敗する企業が続出したわけだが、一方で、CRMの本質を見極め、「顧客1人1人との関係作り」に地道に取り組むことで、収益向上やブランディングに成功した企業も少なからず登場した。昨今の状況をかんがみれば、今後は全ての企業がテクノロジを駆使して、真の意味でのCRMに地道に取り組む姿勢が求められるようになるのかもしれない。

 また、そう考えるとソーシャルメディアの企業導入が注目されていることもうなずける。顧客1人1人との良好な関係を築くためには、どのコンタクトチャネルにおいても一貫性ある対応を行うことがポイントになると言われている。その点、組織が大きくなるほど「肩書き、部署、地理的な条件」などによって、社員の知見や企業風土がふぞろいになりがちなものだが、ソーシャルメディアを使えば「バラバラに分断された個人の間にネットワークを張り巡らし、1つの脳のような環境を社内に作り、力を結集」することができる。すなわち“顔”が見えるような、一貫性ある活動が可能になるのである。

 著者は、こうしたソーシャルメディアに対するリテラシの高低が、5年後、10年後の業績を大きく左右するだろうと指摘している。日本国内ではまだソーシャルメディアを導入している企業は少ないが、Google+をはじめ、企業と顧客、企業間、社内のコミュニケーションを変革する各種「ソーシャルテクノロジ」の最新動向をウォッチし、自社ではそれらをどう活用し、どうマーケティングに生かすのかについて考え続けることは、業種・規模を問わず、全ての企業が取り組むべき課題と言えるのではないだろうか。


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