災害対策、コスト削減、システム改善は全て同じ問題:情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(93)
昨年、注目されたBCPやワークライフバランスというテーマは、「収益に貢献できるIT」「システム管理コスト削減」といった問題と全く別の問題というわけではない。
危機管理型クラウド
「テレワークに向いているものや向いていないものをあらかじめ区分しておいて、平時から週に何日はテレワークをする日というかたちで、危機対応を念頭に置いたテレワークを実践しておくべきだ」という議論もあった。しかし、単に災害対応としてのみテレワークを行うのではなく、「ワークライフバランスとITのディザスタ・リカバリの訓練を兼ねて、テレワークを日常的に行っていただきたい」――。
本書「危機管理型クラウド」は、「クラウド化によって場所に縛られないIT環境を構築する」ことで、「自社ビルが火災や地震、水害などで倒壊したり全滅したりしても、一部の業務端末が被害を受けるだけで」済み、「インターネットにつなげる環境を整えれば」、それまで通りのIT環境をそのまま利用できる「危機管理型クラウド」の活用を推奨した作品である。冒頭のように、災害時に備えたイレギュラーな施策として危機管理に取り組むのではなく、「場所に縛られずに仕事ができる」クラウド環境を利用し、ワークライフバランスなどの施策をうまく組み合わせて、災害対策を日常に浸透させることが重要だと訴えている。
特に筆者が注目しているのが、災害対策におけるBYOD(Bring your own device)とスマートデバイスの有効性だ。例えば、「ノートPCの持ち出し禁止」としている企業も多いが、万一、自社ビルが倒壊してしまえば「システムだけではなく、そのシステムを操作するための業務端末すら全滅してしまう」。
しかし、確実なセキュリティ体制の下、従業員がiPadなどの私物端末を使って「業務システムに安全にアクセスし、出張先でも地球の裏側からでもインターネットを経由して業務を行うことができれば」、日常業務の機動性が向上するとともに、万一、自社ビルが被害を受けても事業を継続できる。特に「安否確認や情報共有などをクラウド型のグループウェアやメールなどで行えれば」、「場所に縛られない命を大切にする働き方・危機対応が可能になる」と説いている。
一方で、ただ闇雲にクラウドを勧めているわけではない。実際、クラウド黎明期には、「クラウド化すれば安くなるはずだと思ったところ、実際にはクラウドで利用するID数によって、オンプレミス対応の方がIT運用コストが安かった」ため、「クラウドからオンプレミスに戻した企業もあった」。
従って、「IT保守運用要員の固定費化された人件費」や「データのバックアップ、リストアに掛かるコスト」などを全て洗い出し、オンプレミスとクラウドの運用コストは、「どちらが安いのか、またどちらが災害対応の観点から望ましいのか、あるいは復旧復興においてどちらがより望ましい対応なのか」を、慎重に検討すべきだと説いている。その上で、「オンプレミスばかりにこだわるのではなく、クラウドも活用し、クラウドとオンプレミスのいいとこどりによるハイブリッド型クラウドを活用していく」ことが、「IT環境の健全性確保や災害時の対応、スムーズなディザスタ・リカバリを実現する重要なキーポイント」になると訴えている。
昨年の東日本大震災以降、しばらくの間、BCPやワークライフバランスといった言葉が多くの企業に注目されたが、最近はめっきり聞かれなくなった。一方で、「ITシステムの運用管理コスト削減」「収益に貢献できるIT」といったテーマは、依然として企業の最大の関心事となり続けている。だが、これらは決して別々の問題というわけではなく、日常業務の効率化と、合理的なITシステムの在り方を考えれば、自ずと災害時にも強いIT基盤を構築することにつながる――本書を読むと、そうしたことをあらためて理解できるのではないだろうか。
多くの話題を掲載しているため、やや散漫な印象も強いが、1つの話題を2〜4ページほどのコンパクトな分量に抑え、どこからでも読める構成している。少し空いた時間に、災害対策、ワークライフバランスという視点から、ITシステムの改善、効率化を探ってみると、思わぬ突破口が見出せるかもしれない。
- 人はなぜ不正を働くのか?
- なぜIKEAは世界中で支持されるのか
- 今こそ「メディア」を考える
- 部下を信じ、尊敬する
- ご機嫌取りになれ
- “暗い未来”に漫然と向かわないために
- 1つの行動が社会を変革する
- あなたには確固たる「ミッション」があるか?
- 「会社に行きたくない」人ほど会社に依存している
- 失敗の2大パターンは“精神論とお役所仕事”
- コミュニケーションは、ツールではなく人が行うもの
- 社員が疲弊している会社は、経営層とITに問題あり
- ロジカルシンキングで成果が出ない訳
- 手段ばかりを求めていると、結果は出せない
- 「技術へのこだわり」という日本企業の根深い病
- 日本軍とまったく同じ、日本企業の“敗戦理由”
- “技術だけ”では、開発プロジェクトは失敗する
- 断捨離で、業務とシステムはもっと快適になる
- 仕事でモメたくない人のための教科書
- その油断と慢心が“炎上”を招く
- 本当は怖いフェイスブック
- 組織も自分もダメにする「自分大好き」という病
- 災害対策、コスト削減、システム改善は全て同じ問題
- あなたなら、自社システムをどう攻撃する?
- “想定外”から1年、見て見ぬふりはしていませんか?
- ナイトライダーも示唆する人とシステムのあるべき関係
- アップルが成功し、ソニーが失敗した理由
- 貴社のビジネス、ITシステムに“マインド”はあるか?
- 何のために働くのか? その回答はシンプルそのものだ
- 事故を起こす企業の特徴は、「責任者が不明」
- スマホ導入は、セキュリティポリシー設定がキモ
- 失敗は、「簡単なこと」「当たり前のこと」で起こる
- ITがどれほど進展しても、経営の基本は変わらない
- コピペやお絵かきが得意な人は“中毒”の疑いあり
- 情報は、人間関係があって初めて有効に活用できる
- “顧客”や“ユーザー”との関係作りを見直そう
- システム導入・浸透のポイントは“楽しさ”にあり
- “当たり前”を覆すチャンスはまだまだ埋まっている
- ソーシャルメディア・リテラシが収益を左右する
- 技術者はアーティストであり、製造業者ではない
- 分析するのは「ツール」ではなく「人」である
- ブランドは、消耗品である
- 当然のことを当然にこなすための指南書
- リスクを知っていてこそ、スマホは使いこなせる
- 個人でも企業でも、“ナンパ野郎”はウザいだけ
- 「見える化」だけでは、ビジネスは進まない
- 2ちゃん、ニコ動、外務省。次の標的は貴社のサイト!?
- あなたの会社は「突然死」の危機にさらされている
- BCPは、業務部門と情シスが連携して初めて成功する
- 仕事や人生、そして復興にも、秘策はない
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