なぜ、“FOMAでスライドボディ”なのか〜開発陣に聞く「D901i」

FOMA初のスライドボディ端末「D901i」。スライド式を採用した背景には、“FOMAならでは”の機能をもっと手軽に──という開発陣の思いがある。そのこだわりを聞いた。

 「FOMA初のスライドボディ」がウリの「D901i」。三菱電機製端末としてはPDCの「D253i」に続く2モデル目のスライド端末となるが、そのコンセプトは異なるものだ。

 D253iが小型・軽量化を重視したのに対し、D901iは高機能・高性能なFOMAをいかに使いやすくするかを念頭に置いて開発されたという。


金属の持つ質感を強調したデザイン。ヘアライン加工のアルミプレートを貼ったボディには高級感が漂う


方向キーにはスピンカット加工、D901iロゴにはダイヤカット加工が施される

 「スライドボディを選んだのは、今後発展するであろうアプリケーションとの相性を考えたため」と話すのは、三菱電機モバイルターミナル製作所の第一プロジェクトグループでD901iを担当した松波由哲氏。大きな液晶が常に表に出ているスライドボディには、高機能化する携帯電話を使いやすくする、さまざまなメリットがあるという。

 「端末を横向きにすればデジカメライクなスタイルで写真を撮れるなど、高画素カメラとの相性がいい。動画ビューワとしての使い勝手もよく、いずれ地上波デジタルテレビが入ってくるときにも、折りたたみ端末に比べて利便性が高い。FeliCaが標準搭載になったときには、端末をいちいち開くことなく使った後の確認ができる」(松波氏)。こうした携帯の将来像を見越して採用したのが、スライドボディというわけだ。

 “FOMA+スライドボディ”の最初の一歩となる「D901i」のこだわりについて、松波氏に聞いた。

三菱電機モバイルターミナル製作所 第一プロジェクトグループの松波由哲氏

“こんな工夫”でスライドを心地よく

 D901iのスライドは、「知らず知らずのうちに開閉してしまう心地よさを追求したもの」だと松波氏。その秘密はスライドアシストだ。途中までスライドさせると、あとは内蔵されたバネの力で自然に端末が開く。この動作は閉じるときも同様だ。「バネの反発力が強すぎても弱すぎてもスライド開閉の感触が悪くなる。ここの力加減は、こだわってチューニングした」


端末の両サイドには、滑り止めが付いている。「ここを押してスライドさせる──ということを示す意味もある」

 ほかにもスライドボディならではの工夫が盛り込まれている。スライド端末の場合、閉じた状態でも各種操作が行えるよう、方向キーとソフトキーが表に出ているが、これがカバンの中などに入れたときに押されて誤動作しては、利便性を損なってしまう。そのためスライド端末は、表に出ているキーの機能を一時的にロックする「キーロック」機能を搭載するのが一般的だ。しかしこのキーロックもメールや電話が着信した際、すぐに解除できなくては使い勝手が悪い。ロックが「諸刃の刀」になりかねないのがスライド端末の課題となっていた。

 D901iは、2つの方向からこの問題に対応している。1つはハードウェア面からのアプローチだ。「ロックボタンはオン/オフしやすいスライドタイプのものを採用。表に出ている方向キーやソフトキーは、軽く当たった程度では押されないように、押圧を高めに設定。押しづらくならないぎりぎりのところで調整している」

 もう1つは、ソフトウェア面の工夫だ。「ロックをオンにした状態でも、端末を開けばロックが一時的に解除され、閉じると自動的にロックがかかる。また、閉じた状態で電話やメールが着信した場合にも一時的にロックが解除され、閉じたまま電話に出たり、メールを読んだりできる」


開いたときの裏面もレールが目立たないよう工夫している。「最初は金属のレールが見えていたが、それではあまりに見映えが悪い。樹脂をかぶせて見えなくするために構造的な見直しを図った」。iモードエンブレムの部分もシールを貼って、ほかの部分との色の違和感がないように工夫した

常に出ている液晶にもこだわり〜広視野角大画面ディスプレイ

 D901iはスライドボディを採用しているため、画面が常に出ている状態だ。そのため、画面サイズや画面のきれいさにもとことんこだわった。

 「三菱で初めて2.4インチサイズの液晶を採用し、輝度・コントラストも過去機種から更に向上している。視野角もこれまでにない広さ」

 写真やムービーなど、みんなで一緒に見ても、全く違和感なく楽しむことが可能だ。

“D”の遺伝子、“ヨコ撮りデザイン”ははずせない〜カメラ

 三菱端末といえば、思い出すのが「スピンアイ」と名付けられた独特のヒンジ機構。ヒンジ部に設けられたカメラが端末の開閉に伴って回転し、端末を開くと自分撮り、閉じると端末を横向きにしたデジカメスタイルでの撮影ができるというものだ。「この機構は、『カメラが高機能になると、“折りたたみを開く”というこれまでの撮影スタイルでは写真が撮りにくい。普通のカメラのように撮影できないか』というエンジニアの声から生まれた」。D901iもボディ形状は変わったものの、“ヨコ撮りデザイン”にはこだわったと話す。


裏面は一見するとデジタルカメラのように見える。金属感にこだわったデザインは、デジタルカメラを意識したものだ


カメラボタンの長押しでカメラが起動。端末を開閉することなく、さっと横撮りスタイルでデジタルカメラのように写真を撮れる

 カメラは200万画素スーパーCCDハニカムを採用。通常のCCDに比べて感度が高く、ハニカム処理した画像を200万画素に圧縮していることから、通常の200万画素CCDよりも鮮明な画像を得られるという。

低音がしっかり出ます〜音楽再生機能

 D901iは音楽再生機能も見逃せない。アップルコンピュータのジュークボックスソフト「iTunes」で音楽CDからエンコードしたAAC形式の音楽をminiSDに取り込んで再生できる。連続再生が可能なため、簡易ミュージックプレーヤーとして使えるのだ。メインディスプレイやソフトキーが表に出ているので、折りたたみ端末に比べて操作しやすいのがメリットになる。

 「ヘッドホンで聴く音はかなりいい」と松波氏は胸を張る。「ヘッドホン出力には直流成分をカットするコンデンサが必要だが、小さいコンデンサを使うと低域が減衰して音に迫力がなくなる。D901iでは容量の大きなコンデンサを使って、低域までフラットな特性にしている」

動きのあるイルミネーションで、スライドの動きを強調

 D901iには「マルチイルミネーション」と名付けられた着信ランプが底面に装備されている。端末の開閉時や着信時に光る仕組みで、「スライドの動きをより強調させたい」ということから、3つのLEDの光り方を制御して動きがあるように見せている。


底面に3つのLEDを入れたマルチイルミネーションを搭載。光り方のパターンは17種類

 「この光の動きを考えるときに、真っ先にイメージしたのが『ナイトライダー』(米国の人気テレビドラマ)。僕らはこのドラマにハマった世代。キットみたいに光ったらかっこいいよね、と」

 フレームレスキーを採用したキーボード面も、金属調ボディとの一体感やバックライトのライティングにこだわった。「せっかく格子のないキーを採用しているので、そこを強調できるような光らせかたができないかと。そこでMusic PORTERで採用した、キーの隙間からLEDが光って見える仕組みをさらに強調したものをD901iに載せている。ミュージックポーターでは4つだったLEDを8個にして、各キーの隙間から光が見えるようにした」


キーの下に突起を設けるなど、誤操作にも配慮したフレームレスキー。隙間から、8個の赤いLEDが光を放つ

カメラも音楽もスケジュール管理も“これ1台”で

 D901iを使っていると、意外と端末を開かずに済む動作が多いことに気付く。電話帳に登録してある相手なら閉じたまま電話をかけることができ、メールやスケジュールの確認、iモードの閲覧も可能だ。

 その上カメラや音楽機能も閉じた状態で操作でき、キー操作が必要なときだけ端末を開けばいい。こうした使い勝手は、PDAに近づいている印象も受ける。

 携帯電話のさらなる多機能化に対応すべく、新しいスタイルを採り入れたD901i。“D”の遺伝子を残しつつ、利便性も増したこの形で、記念すべき第1歩を踏み出したといえるだろう。