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分解して知る、「Apple Watch Series 3」のモバイル通信を担う部品たちバラして見ずにはいられない(1/2 ページ)

歴代のApple Watchを見ると、新技術はまずWatchに搭載され、それからiPhoneに搭載されるようだ。今回は「Apple Watch Series 3」(セルラーモデル)を分解。気になるeSIMや、モバイル通信用のアンテナなどを見ていきたい。

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 最先端技術のテストベッドはメーカーで大きく異なる。世界最大のスマートフォンメーカーの韓国Samsung Electronicsの場合、基板面積にゆとりのあるスマホに新部品や新技術を乗せ、完成度を高めてスマートウォッチなどのウェアラブル機器に搭載する。Appleは逆で、歴代のApple Watchを見ると、新技術はまずWatchに搭載され、それからiPhoneに搭載されるようだ。今回は「Apple Watch Series 3」(セルラーモデル)を分解しつつ、歴代のApple Watchに搭載された新技術をご紹介する。

Apple Watch Series 3
「Apple Watch Series 3」(セルラーモデル)を分解したところ。主要部品の構成は従来モデルと似ている
Apple Watch Series 3
単独でモバイル通信が可能になったApple Watch Series 3

Apple Watchは新技術の実験場

 Apple Watchの初号機は2015年に発売された。当時ほとんど採用例がなかったフィルムタイプの有機ELパネルを搭載した。この分野で知られているのはSamsungで、個々の画素が3色に発色するが、LG製パネルは全体が白く光り、その上にカラーフィルターを乗せて発色させる方式である。Appleが採用したのはLGの製品であった。心拍センサーや無線充電などもこの時に採用された。本体に18金を搭載するなど素材で話題になったのも記憶に新しい。

 第2世代機(Series 2)は2016年に発売された。新機能として日本特有のモバイル決済サービス「おサイフケータイ(FeliCa)」に対応した。またニュータイプの電子部品として、MEMS(Micro Electrical Mechanical System)ベースのタイミングデバイスを搭載した。基板面積がiPhoneより狭いWatchでは、とにかく小さな部品が必要とされる。水晶を使う方式よりも小型化可能なシリコンを使ったMEMS製品の方が適していたのだろう。

Apple Watch Series 3
Apple製品で初めてMEMSタイミングデバイスを搭載したのがApple Watch。新製品はまずWatchに搭載されるようだ

 2017年に発売された第3世代機(Series 3)のセルラーモデルには、電話回線を利用する機能が加わった。これにより、スマホの子機だったApple Watchは独立した電話機として機能するようになった。電話回線を利用可能なスマートウォッチは以前から多くの企業が販売しているが、Appleはこの分野に先進的な技術を投入した。

Series 3には次世代SIMカードを採用

 携帯電話を利用するには、契約して電話番号を取得し、その情報が記録されたSIMカードを差し込む必要がある。スマートウォッチで電話機能を有するものは他社からも発売されているが、いずれもSIMカードを挿入する必要がある。Appleは恐らく世界で初めてSIM不要(これぞSIMフリー)の電話機能付きスマートウォッチを発売したことになる。この技術は「eSIM」と呼ばれている(NTTドコモの資料)。

 Apple Watch Series 3のeSIM機能は基板上に搭載された3mm角程度の8ビットフラッシュマイコンが担当する。SIMカードにもこのような極小チップが搭載されており、SIMカードとハードウェアは同じだ。Series 3のユニークな点は、スマホのSIMカード情報を無線でSeries 3にコピーできる点だ。携帯電話事業会社には月額350円または500円(税別)を支払う必要があるが、スマートフォンに比べれば安い。Series 3はiPhone 6以降とペアリングできる。

Apple Watch Series 3
基板裏側に電話回線を担当する部品が搭載された。ICやアンテナなどで約25ドルのコストアップとなる
Apple Watch Series 3
SIMカードの情報をコピーし保存するのが、伊仏合弁STMicroelectronics製の小型フラッシュマイコンだ。今後多くの製品に採用が広がると期待されている

eSIMの可能性は無限大

 現在のところeSIMはiPhoneとApple Watch Series 3の間だけで利用可能な機能だが、汎用(はんよう)性は極めて高い。例えばiPadはどうだろうか。多くのユーザーは電話番号を2つ契約する煩雑さや費用負担への懸念から、Wi-Fiモデルを購入し、スマホ経由でネット接続している。もしSeries 3と同じ仕組みのeSIMがiPadに搭載されれば、こちらのタイプを利用するユーザーも増えるのではないだろうか。PCでも使ってみたいと思う人もいるだろう。

 ある証券アナリストは自動車への応用の可能性に言及した。現在はキーを持つ人が運転者であるが、自動車は家族共用の場合もあり、厳密に運転者個人を識別するのは難しい。しかしスマホは1人1台のパーソナルアイテムなので、自動車の始動にeSIMに対応させると、運転者をより正確に識別可能になる。さらに、走行情報などを収集するビッグデータの精度向上につながり、個人を識別するサービスへのはずみがつくと考えられる。

電話機能を担当する部品たち

 これまでのApple Watchは片面にほぼ全ての電子部品を搭載し、表面をグレーの金属含有と思われる樹脂でコートしているため、分解だけでは電子部品を見ることができなかった。この傾向はSeries 3でも変わらないが、フレキシブルプリント基板(FPC)が集まる背面の一部に、電話機能担当ICと思われる電子部品が集まった。

アンテナ配置はこうなっている

 電話機能は無線の一種であるため、アンテナが必要だ。電話用のアンテナは見つけにくいが、カバーガラスの4辺の1つに細長い金属構造物として貼り付けられていた。一般的には周波数帯が高いほどアンテナは短い。

 Apple Watch Series 3セルラーモデルのモバイル通信用アンテナは短く、ディスプレイ周辺部の1辺に設置したものと思われる。無線LAN、Blueotooth、GPSアンテナは本体外周に独立したユニットとして設置され、NFCアンテナはディスプレイ背面に渦を巻いた状態でシートとして設置されており、このあたりは従来と同じ配置である。

Apple Watch Series 3
ディスプレイ背面に搭載されたNFC/RFID(FeliCa)アンテナは、渦を巻くような形状になっている。モバイル通信用アンテナは、カバーガラス裏側に細長い棒のような形状で配置されている
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