「4Gと5Gは似て非なるもの、全く違う世界が始まる」 ソフトバンク宮川氏が5GやIoTの取り組みを説明:ワイヤレスジャパン 2018(1/2 ページ)
ソフトバンクの宮川潤一CTOが、「5G×IoT発展を促す共創」とのテーマで講演。ソフトバンクの5GやIoTに関する取り組みを説明した。宮川氏は「4Gと5Gは、本当に似て非なるもの」と強調する。
ソフトバンクのCTO(最高技術責任者)を務めている宮川潤一氏が、ワイヤレス・テクノロジー・パークとワイヤレスジャパンが共同で企画・開催した「5G、IoT、AIで拓くFUTURE SOCIETY」で、「5G×IoT発展を促す共創」と題した講演を行い、ソフトバンクの5GやIoTに関する取り組みを説明した。
IoTはデータに新しい価値を生み出す
宮川氏はまず、ソフトバンクはIoTのインフラとして、LPWA(Low Power Wide Area)の「NB-IoT」を中心に展開していくと語った。ソフトバンクは2018年4月、他社に先駆けてNB-IoTの商用サービスを開始し、月額通信料が10円からの「IoT料金プラン」を提供している。
宮川氏は「現行法だと、1デバイスあたり年間140円の電波利用料がかかるが、今は通信会社が汗をかく時期」と語り、低料金でのサービス提供に踏み切った理由を説明した。狙っているのは、IoTによって「データという新しい価値が発生する」ことだ。
宮川氏は、水道メーターがIoT化される例を紹介。検針の労働力不足やコスト削減といった理由からIoT化された水道メーターが導入されるかもしれないが、「これによってリアルタイムデータが取得できるようになるので、水道が使われる時間が分かったり、使われるはずのない時間に使われていれば水漏れを疑えるようになったりする。データの価値が変わってくる」というメリットが生まれる。
しかも、「違ったデータと組み合わせると、さらに新しい価値に変わる」(同氏)。そのために「とにかくデータをたくさん集めたい。また、みなさんがたくさんのデータを取りやすいような環境を作りたい」と宮川氏は語った。交通量や位置情報など、さまざまなシステムから取得できるデータ、ソフトバンクが持っているデータ、企業や自治体が持っているデータを集め、解析することで、「新しい価値を生み出していくことができると思う」と述べた。
ソフトバンクが取り組むIoTのユースケース
次に、ソフトバンクが取り組んでいるIoTサービスの事例を紹介。最初に挙げたのがスマートシティーだ。ソフトバンクは、さまざまな自治体と地方創生に向けた協定を締結し、スマートシティープラットフォームの構築に取り組んでいる。人々の生活で生まれてくるデータを1カ所に集め、APIを通じてさまざまなデータと掛け合わせることで、「また新しい産業が生まれるのではないか」と宮川氏は期待を寄せた。
ソフトバンクがスマートフォンの位置情報、地図の情報、時間情報を組み合わせて作った、京都市の1日の人の流れを可視化した人流データを示し、人の動きを理解して最適な公共インフラを模索する実験を始めていることも紹介した。
他に、日建設計と業務提携して行っているロボットなどを活用したスマートビルディングの設計開発、北海道のサーキット場に5Gの実験用基地局を設置して本田技術研究所と共同研究しているコネクテッドカー技術、運動や睡眠、食事のデータの子育てへの活用などを自治体と組んで試験していることを取り上げた。
とはいえ、これらの取り組みが「ビジネスになっているのかという質問をされるが、全くなっていない。今は本当に持ち出しばかりで、われわれ自身も勉強する時間だと思っている」といい、現在は利益よりも事例の積み上げを優先している状態だ。
一方で、デバイスのモジュールが秋頃にそろってくることから、2018年は「ホームIoTが本格化する」と宮川氏は予想。ソフトバンクとして「いくつかデバイスも企画している」ことを明らかにした。
5Gでは4Gとは全く違った世界が始まる
こうしたIoTの可能性を広げるものが5Gだと宮川氏はいう。ソフトバンクが考える、5Gが可能にする世界を紹介した動画を上映し、「4Gと5Gは、本当に似て非なるもの」とも述べた。
4Gまでは人が使うことを前提とした通信規格だったが、5Gは主にモノとモノをつなぐための通信規格。4Gと5Gのスペックを比較すると「規格的には10倍くらい能力の違いがある。それだけでなく、構造的に今までと違うところで効いてくるところがたくさんある。それを理解していくと、4Gと全く違う世界が始まる」という自身の考えを述べた。
ソフトバンクの5Gロードマップ。東京五輪が開催される2020年には、既に標準化が終わっている高速大容量通信のサービスインを予定。まだ標準化されていない低遅延や同時多接続の規格は「だいたい2年くらいずれているので、本当の意味での5Gが始まるのは2022年から」(宮川氏)
ただ、「コア側のネットワークも整備しないと、そこでボトルネックが発生してしまう」(宮川氏)。それを防ぐために導入が検討されているのが、サービスに合わせてコアネットワークを用意する「ネットワークスライシング」、基地局のそばにサーバを置き、遅延を少なくする「マルチアクセス・エッジ・コンピューティング(MEC)」だ。
「あらゆる機材がどんどん追加されていくので、コア側の設備をとにかくシンプルにする」(宮川氏)ためにソフトバンクが導入しようとしているのが「セグメントルーティング(SRv6)」。「なかなかベンダーさんが動いてくれなかったので、標準化もさせていただき、今、導入の準備に入っている」という。
「5Gの真価は、線でつながっていた通信が面でつながる時代になること」と宮川氏は言う。「光ファイバーを例にしても、1対1でつないできた線が、無線の世界で同じようなことが実現できるようになり、線の時代から面の時代に突入してきた」と説明。
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