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インタビュー

「AQUOS R2」のカメラは何が変わったのか? 動画専用カメラの狙いは? シャープ開発陣に聞く開発陣に聞く「AQUOS R2」(前編)(1/2 ページ)

シャープの「AQUOS R2」は、デュアルカメラの片方に動画専用カメラを搭載しているのが大きな特徴。AQUOS R2ではなぜ「動画」にこだわったのか。AQUOS R2の開発者インタビュー前編では、カメラ機能の進化に迫る。

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 シャープの最新スマートフォン「AQUOS R2」が、2018年6月8日に3キャリアから発売された。同社が2017年に投入した新ブランドのスマートフォン「AQUOS R」の後継モデルだ。背面にデュアルカメラを搭載しているのは他社と同様だが、AQUOS R2が他社と違うのは、静止画用の標準カメラに加え“動画用のカメラ”を搭載したこと。これにより、超広角の動画を撮ったり、動画を撮りながら高精細な静止画を撮ったりできる。

AQUOS R2
シャープの「AQUOS R2」

 AQUOS R2ではなぜ「動画」にこだわったのか。AQUOS R2の開発者インタビュー前編では、カメラ機能の進化に迫る。

AQUOS R2
AQUOS R2の開発メンバー

「動画」専用カメラを搭載した理由

AQUOS R2
通信事業本部 パーソナル通信事業部 事業部長 小林繁氏

 「AQUOS Rでは、OSバージョンアップを2回約束する、ディスプレイでリアリティーやレスポンスを追求するなど、初めて取り組んだことが幾つかありました。ドラスチックな進化なので支持される自信はありました」と、通信事業本部 パーソナル通信事業部 事業部長の小林繁氏は手応えを話す。

 AQUOS R後継機の開発にあたり、強化されたハードウェアを生かす機能として「ビジュアルコミュニケーション」に着目した。「たくさんの方法とメディアが存在する中で、どこがわれわれの切り口になるかを長時間かけて議論しました。その中で出てきたのが『動画』です」と小林氏は振り返る。周囲に話を聞くと「何か動画って思い通りに撮れないよね」という意見が多かったことが、動画用カメラ開発のきっかけになったという。また「他の人々に自分のライフスタイルを伝えているインフルエンサーで、動画を使っている人が増えている」(小林氏)という状況も後押しした。

 静止画と動画のカメラは、まず画角の違いが大きい。静止画用のカメラは画角が90度、焦点距離が22mm(35mmフィルム換算)であるのに対し、動画用のカメラは画角が135度、焦点距離が19mm(35mmフィルム換算)という超広角仕様にした。通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部の小野直樹氏は「静止画は、周辺にゆがみのないきれいな一枚が撮れることが重要ですが、動画では臨場感を重視しました。目で見た臨場感は120度と言われていますが、すごいな〜と感動したものを動画で収めたものの、あらためて見たらいまひとつだった……ということはよくあります」と説明する。

AQUOS R2
AQUOS R2のアウトカメラ。上のレンズが動画用、下のレンズが静止画用カメラ

 動画カメラの画角を135度にした理由について小野氏は「150度から検討しましたが、そこまで行くと魚眼の域になり、違う映像になってしまいます。どこまで攻められるかのバランスを考え、135にしました」と説明する。

 また、周辺のゆがみは、動画ではむしろあった方がワイド感が増して良いという。「写真はワンシーンで見るので、ゆがみはない方がいいですが、動画は相手が動いて場面も変わるので、“止まった瞬間にここがゆがんでいる”というのは意外と気にならないです」(小林氏)

AQUOS R2
通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 小野直樹氏

 動画と静止画では画質も大きく変えている。特に動画はあえて派手に見えるようにした。「動画は(露出が)アンダー、オーバーでも、撮っているうちに補正されればよく、印象的な方が感動が残りますが、静止画は派手に色が出ると破綻することがあります」と小林氏。「例えば量販店の売り場にあるテレビは、発色がきれいな方が『あぁいい絵だな』と思えますが、それと同じですね。静止画は派手な画作りにするだけでは違います。一瞬を切り取ったものなので、細部まで、ナチュラルなところはナチュラルに写す必要があります」(小野氏)

 AQUOS R2の超広角カメラは、小野氏が散歩している犬をアクションカムで撮るときに、犬目線で動画を撮りたいと思ったことも発想のきっかけだったという。「カメラを被写体と並行になるよう構えますが、ファインダーは見られません。でも、広い画角があれば(そんな状況でも)フレームアウトしないと考えました」(同氏)

 手ブレ補正の仕組みも2つのカメラでは異なる。静止画撮影時は、スマホを構えたときにぶれやすいので、モジュール内のレンズを制御する光学式手ブレ補正を採用。一方、動画撮影時は、撮影者が歩きながら撮ることもあり、より大きな補正角が求められるため、電子式手ブレ補正を採用した。その際、30度の補正角を取るため、実際の画角も30度が削られて、135度から105度になる。ちなみに手ブレ補正は手動でオフにもできるので、その場合は(手ブレは起きやすくなるが)135度の画角をフルに使える。

動画用カメラは約1630万画素だけど……?

 素朴な疑問として、動画用カメラの有効画素数は約1630万画素だが、実際に撮影できる最大サイズは4K2K(2160×3840ピクセル)で、画素数にすると約830万になる。残りの約800万画素はどこに行ったのだろうか。小林氏によると、Snapdragon 845の仕様が関係しているという。

 Snapdragon 845搭載スマートフォンで撮影できる動画の最大サイズは2160×3840ピクセルなので、これを超えるサイズの動画はそもそも撮れない。「8Kをやっていくタイミングでは拡張していくでしょうけど、再生環境を考えると、汎用(はんよう)性の高い解像度を選ばないといけません」と小林氏。プロセッサやスマートフォンの進化に応じて、4Kを超える動画の撮影も今後は可能になるかもしれない。

AIライブシャッターでは何を見ているのか

 AQUOS R2では、動画撮影中に、最適な構図になったとAIが判断したタイミングで自動で静止画を撮影する「AIライブシャッター」を採用している。これも、小野氏が犬の散歩中に「こんな機能があったらいいな」と考えた機能だ。「Bluetoothでシャッターを切れるリモコンもありますが、ファインダーを見ないといい写真を撮れません。動画を撮影しながら静止画も撮影できればいいなと思いました」(同氏)

 気になるのが、何を基準に最適な構図だと判断しているのかだ。通信事業本部 パーソナル通信事業部 要素開発部の山本智昭氏によると、AQUOS R2では物体、シーン、構図の3つを見ているが、特に構図の基準を定めるのが難しかったという。

 「正解がはっきりしているものは機械学習でカバーできますが、構図は暗黙のルールはあるものの、定義が難しかったですね。どの絵がいい構図かを社内で聞くと、全員が違ったものを指したので、これは無理だなと(笑)。ただ、もう少し規模を拡大してアンケートを取っていくと、傾向が分かってきたので、そこを信じて取り組みを始めました」

 通信事業本部 パーソナル通信事業部 第三ソフト開発部の村上則明氏は「静止画と動画、別々にカメラを同時に動かして、なおかつAIでシャッターを切るのは世界初の試みということもあり、それを実現する技術的な難しさがありました。また、静止画はカメラを固定してシャッターを切ることが多いですが、動画はシャッターを切ってから動かして、その最中にシャッターを切る(中で構図を判定する)という難しさもあります」と話す。最適な構図だと判断するために、シャープは何十万枚〜何千万枚にも及ぶ画像を学習させ、実際のシーンでちゃんと撮影できるかを繰り返していった。

AQUOS R2AQUOS R2 通信事業本部 パーソナル通信事業部 要素開発部 山本智昭氏(写真=左)、通信事業本部 パーソナル通信事業部 第三ソフト開発部 村上則明氏(写真=右)

 動画を撮りながら静止画を撮る(キャプチャーする)機能は、多くのスマートフォンが搭載しているが、AQUOS R2のAIライブシャッターでは、動画と静止画の画質が異なるのと同様に、キャプチャーとAIライブシャッターの画作りも異なる。画作りだけでなく、静止画カメラを起動して静止画を撮影するときと、AIライブシャッターで静止画を撮影するときでは、フォーカスやシャッターの速度などを変えているという。

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