News 2000年11月17日 11:55 PM 更新

IntelとTransmetaの競争が切り開く情報家電の未来

 IBMの「ThinkPad 240Z」を見てきた。話題になっているIntelの超低電圧版Pentium IIIを搭載したテクノロジーデモモデルだ。SpeedStepテクノロジにより,AC電源時には500MHz,バッテリー動作時には300MHzで稼働し,ラージバッテリーで6時間の運用が可能だという。製品版の240Zは,低電圧版Pentium III/600MHzを搭載し,500MHz駆動時に4時間稼働だったから,バッテリーによる運用時間は1.5倍に増加したことになる。


IBMの240。見かけは現行製品と同じ。型番も「240Z」と刻まれたテクノロジーデモモデル

 この240Zの中には,実はTransmetaのCrusoeが収まるはずだった。ところが土壇場で採用が見送られたのは,最近,業界を騒がせている有名な事実だ。また,Intelは来年には,SpeedStepテクノロジをダイナミックスケーリングに対応させ,連続的にクロック周波数を変化させるようにするそうなので,パフォーマンスの不満も大きく改善されるにちがいない。

 ただ,バッテリーで6時間使えるPCは,そんなに珍しいものではない。実際,個人的にも東芝のDynaBookや松下のLet's Noteに拡張バッテリを入れたマシンを毎日持ち歩いていた時期があるが,6時間は余裕で使うことができた。ただし,プロセッサは400MHzのPentium IIやIIIだったし,重量は2キロ前後を覚悟しなければならなかった。こうなると,肩への負担は決して小さいものではなくなる。

 現在,実際に製品として出荷されている「ThinkPad 240Z 2609-82J」は1.43キロだ。この重量で6時間を実現できるのだったら,それも魅力的だなと思う。もちろん,このバッテリー運用時間は,決してプロセッサの低消費電力化だけによって実現されているものではない。さまざまな省電力への努力の積み重ねとしてのパッケージングが長時間運用を可能にしているのだ。

 事実,NECの「LaVie MX」では,Crusoeを搭載したほか,反射型のSVGA液晶を採用し,液晶裏にリチウムポリマー電池を仕込むといった工夫によって,1.37キロで11時間の運用時間を確保できている。これはカタログスペックなのだが,実際に使ってみると,もっと持つ。何もせずに放置したときには,15時間経っても大丈夫だったという話も聞いた。

 さらに軽量で10時間運用ができるというカシオの「CASSIOPEIA FIVA」も見せてもらった。これもCrusoe搭載機だ。


NECの「LaVie MX」。飛行機での長時間使用を終わって充電中。窓から陽が差し込むような劣悪な環境でも十分に使える反射型TFT液晶は,まさに紙のノート感覚


カシオのFIVA。数時間のデモなのだから,電源アダプタをはずして展示するくらいの度胸がほしかった

バッテリーがパソコンの使い方を変える

 こんな具合に10時間を超えるバッテリー運用時間は,これまでのノートパソコンでは想像できなかったような使い方を可能にする。朝9時にパソコンを使い始めて,一度も電源を切らずにいても,夜の7時まで使えるのだ。こうなると,サスペンドからのレジュームが遅いといった問題は気にならなくなる。なぜなら,パソコンの電源を切らずに持ち運ぶような使い方が現実的なものになるからだ。

 今,周りの人たちに聞くと,携帯電話の電源を切ることはまずないという。自宅での充電中にも常時待機状態にあるそうだ。この記事を読んでいただいている読者の方も,そういう使い方をしているケースは少なくないだろう。11時間電池で使えるパソコンは,携帯電話と同じようなスタイルで使えて,電源をオフにすることなく,使いたいときにサッと開いてサッと使い始められるまさに紙のノートのような文房具になるわけだ。デスクトップパソコン全盛の時代から,すぐに使えることが大事なのだから,パソコンの電源は切るべきではないと騒いでいたぼくにとって(地球への優しさという観点ではとんでもない話だが),サスペンドレジュームができるノートパソコンの登場は,実に画期的だった。が,あの重さで10だの11時間だのといったバッテリー運用時間を誇るノートパソコンの登場は,まさに事件といってもいい。パーソナルコンピューティングのスタイルを大きく変える可能性があるからだ。

 ここで大事なことは,中に鎮座しているプロセッサがPentium IIIであろうが,Crusoeであろうが,使う側にとっては,それらはあまり重要ではないということだ。大事なのは,10時間を超えるほどに長いバッテリー運用時間と,持ち運びの苦にならない重量,そして,それなりのパフォーマンス,そして気にする必要のない発熱と騒音だ。プロセッサの発熱が抑えられてファンレスが実現されたのなら,次はHDDの無音化にもチャレンジしてほしい。ただ,これらの問題をすべてクリアするのは難しく,どれかを優先すれば,どれかが犠牲になるというのが従来のノートパソコンだったわけだが,ここにきて,もっと欲張れる環境が整ってきたことをうれしく思う。やっぱり無茶は言ってみるものだ。

 IBMはIntelをとったものの,IntelとTransmetaの熾烈な戦いは今始まったばかりだ。水面下では,既に来年の新モデルに関して,いろんな動きが進行中なのだろう。このステージにおける競争は,確実に,将来の情報家電の方向性に重要な影響を与えるに違いない。

 電源がワイヤレスで確保できたら,どんなにいいだろうと思うことがある。部屋の中に置いておくだけで常にエネルギーが補充され,充電ということを意識しないでいい機器があればすばらしい。人間の安全性を無視すればそれも不可能ではないという話も聞くが,21世紀中にはそれも実現されるかもしれない。今のうちに無茶をいっておくことにしよう。

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[山田祥平, ITmedia]

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