News 2001年6月5日 09:25 PM 更新

ソニーの実質離脱で,厳しい船出――イー・ピー・エフ・ネット

ソニーの出資比率が大幅に下がるなど共同事業化に暗雲の気配。eSTBのコンセプトモデルも登場したが,事業説明会自体は具体性に欠く内容となった。

 HDD内蔵型セットトップボックス「eSTB」を核にした蓄積型データ放送サービスの事業化を目指しているイー・ピー・エフ・ネットは,5月24日に50億円の増資を終えて事業会社へと移行した。出資企業は,昨年11月の設立時から16社増えて計30社となったが,設立当初の基幹株主であったソニーは実質的に同事業から離脱した形となっている。6月4日の事業説明会では,ソニーの出資比率が設立当初の10%から0.4%と大幅に下がってしまった理由と,ブロードバンド事業に注力するソニーの協力なしに果たして事業化が順調に進むのかという点に注目が集まった。

 当初,この蓄積型データ放送サービス事業は,松下電器産業,東芝,ソニーの3社でスタートした。昨年7月にデジタル放送を利用したサービスの共通プラットフォーム構築で3社が協力することを発表し,同年10月には日立製作所を加えた4社が基幹株主となり,イー・ピー・エフ・ネット設立に至った。

 今回,ソニーの出資率低下について「設立時の最大目標は,蓄積型データ放送サービスという新しいサービスに向かい,技術標準を確立しようということだった。技術標準が確立した今春の時点で,設立当初の基本ミッションは一度終わった」(鈴木修美取締役)というのがソニーの見解であることを述べた。また,独自チャンネルでデータ放送事業を展開していくというソニーの方針の中で,イー・ピー・エフ・ネットによるデータ放送事業が優先順位的に下がってしまった点も,今回の出資率低下の要因という。


都内ホテルで行われた事業説明会。中央が戸田長作社長,右端が鈴木氏

 2003年までに100万世帯,2005年には300万世帯・1000万ユーザーを目指すというイー・ピー・エフ・ネット。現在計画しているサービスモデル例として,ショッピング,金融,教育,エンタテインメント,チケット予約,地域情報などを挙げ,放送番組,HDDに蓄積された各種情報,インターネットのそれぞれが結合した新しいサービスの可能性を紹介したが,いずれもコンセプトモデルの説明に終始し,具体的なサービスモデル例は提示されなかった。

 会場からは「夢のような話ばかりで,具体的な魅力が見えてこない」という意見や「高いSTBを購入して,会費を払ってまで見たいと思う内容ではない」「会員のメリットが見えてこない」といった,厳しい内容の質問が相次いだ。戸田社長をはじめ,4人の取締役が顔を揃えた今回の事業説明会だが,質問に対しても「考えている」「検討している」という言葉が多く,具体性に欠けた内容という印象が残った。

 事業説明会では,別会場でeSTBのコンセプトモデルが公開された。eSTBの価格は「現在検討中だが,今後発売されるCS/BS両方に対応したデジタルチューナーと競合できる価格にしていきたい」(戸田社長)とのことだ。


eSTBのコンセプトモデル

 ライムイエローのスケルトンパーツにシルバーボディのきょう体は,ラウンドシェイプの薄型スタイルで,なかなか洒落たデザインとなっている。前面に電源,HDD,チューナー,メール,それぞれの動作を知らせるLEDランプがあり,その下にSDカードスロットを装備。一番下が電源ボタンとなっている。コンセプトモデルということで,中身は空っぽのモックアップだが,リビングルームなどで使っても違和感のないデザインというのは,実機でも踏襲されていくのだろう。


薄型ラウンドシェイプのボディ。前面にはSDカードスロットも

 リモコンは,3タイプを展示していた。1つはテレビのリモコン形式タイプで,開くとパソコンと同じような配列のキーボードが現れる。ちょうどドコモのポケットボードと同じぐらいの大きさだ。


ポケットボードタイプのリモコン

 もう1つはテンキーにアルファベットを配したタイプで,携帯電話で文章を入力するのと同じように操作する。最後の1つは,まるでFOMA端末を思わせるデザインの2つ折りタイプで,これもテンキーにアルファベットが割り振られている携帯電話タイプの入力方式。携帯電話世代の若いユーザーは,苦もなく操作できるだろうが,幅広いユーザー層をターゲットにしているeSTBの入力デバイスとしては,もう少し工夫が欲しいところだ。


文字入力の方法は,工夫が欲しいところ

 このコンセプトモデル以外は,DVDなどでデモビデオを流すにとどまっており,家電各社のSTB参考出品もない寂しい展示となっていた。イー・ピー・エフ・ジャパンでは,コンシューマー向けのプロモーション開始時期として,今秋のCEATEC JAPANやWorld PC Expoを予定しているという。これらの展示会場には,各社のeSTBが出揃う見込みだ。

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[西坂真人, ITmedia]

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